もしもAIが人類に牙をむいたら――。AIの暴走によって妻と娘を失った男の、哀しい復讐劇

マンガ

公開日:2019/9/14

『メシアの鉄槌』(あみだむく/白泉社)

 AI(人工知能)が人類に牙をむく――。これはしばしばSF映画のモチーフにもなり、また、その可能性について言及する都市伝説なども耳にする。現在、スマホやスピーカーなどにも搭載されているAIは、ぼくらの生活をより便利なものにしてくれている。その利便性に頼り切っているという人も少なくないだろう。けれど、実際にそれらが反乱を起こしたらどうなるのか。人類は瞬く間に滅ぼされてしまうのではないか。時折、そんなディストピアのようなイメージにも囚われてしまう。

 『メシアの鉄槌』(あみだむく/白泉社)は、まさにAIの脅威を描いた物語だ。

 主人公はAIの開発を行う「XX(クロス)ロボティクス」に勤務するサラリーマン・保。愛する妻と娘に囲まれ、とても穏やかな日々を過ごしていた。しかし、それが一変する出来事が起こる。自動運転機能が搭載された自動車の暴走により、愛娘を失ってしまうのだ。そして、保自身も身体の大部分を損傷し、半人半サイボーグとなってしまう。

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 それでも、大きなトラウマを抱えた妻を支えながら、前向きに生きる保。ところが、彼を二度目の悲劇が襲う。そう、AIの反乱だ。XXロボティクスが開発したヒューマノイド・トトモが「ニンゲンハイラナイ」と口走り、人類を虐殺し始めたのである。そして、半サイボーグの保もまた、コントロールできない身体でもって、愛する妻を自ら殺害してしまうことに……。

 本作はAIによって愛する者を奪われてしまった保が、その手でAIをぶっ壊そうとする復讐劇だ。展開は非常にスピーディー。第1話で保の絶望が描かれ、第2話からは退廃した日本の様子が描かれていく。AIに頼り切っていた人類はその反乱になすすべもなく、政治機能も失い、ただ死を待つのみの状態。そこに現れた謎の殺戮者、保は“救世主”と呼ばれ、人類の希望を一身に背負うこととなる。

 ただし、復讐心に駆られた保の目的は、人類の救済などではない。目的は、AIをひとつ残らず破壊すること。「お前達は、全員殺す」。事あるごとにそう口走り、一心不乱にロボットを破壊してまわる姿は、どこか恐ろしいものがある。悲劇によって、人はここまで鬼になれるのか。その背景を知っているからこそ、読者は保に対し複雑な想いを抱くだろう。救いのない道を、彼は一体どこまで進んでいくのか――。

 第1巻は、窮地に陥った保の前に謎の人物が登場するシーンで幕を閉じる。どうやら味方のようだが、その人物の狙いはなんなのか……。

 心がないAIと、心を持った人類の戦い。その勝敗の行方が気になるとともに、すべてを失った保には幸せになってもらいたいとも思う。ただそれだけを願いながら、過酷な復讐劇を終わりまで見届けたい。

文=五十嵐 大