「地球の支配者」となるのは人間か、衣服か。“人喰い繊維”が人類を襲う、異色のパニックホラー

マンガ

公開日:2019/9/16

『服従都市』(中西寛/小学館)

 食物連鎖の頂点に立ち、複雑な社会を形成している人類は「地球の支配者」といえる。しかし、これはあくまで現時点での話。46億年にも及ぶ長い歴史のなかでさまざまな生物が支配者として成り替わってきたことを考えると、いつ人類の立場が危うくなってもおかしくない。人類をも服従させ、次なる地球の支配者になるのは一体……?

『服従都市』(中西寛/小学館)の主人公、綾羽京(あやは・きょう)は神寓前高校に通う高校3年。彼の悩みは“毎日が平凡すぎる”こと。勉強・スポーツ・異性からの評価……あらゆる分野で秀でている京にとって、刺激のない日々はうんざりするほど退屈だった。ある日、同級生のミント、恋香(れんか)、真綿(まわた)とのボウリングで最下位になった京は、罰ゲームとしてダサいTシャツを着て渋谷を歩くことになる。大きな笑い声を立てる友人たちとは対照的に、京は恥ずかしさも面白さも一切感じられない。なにをやってもつまらない自分に嫌悪感を抱きつつ、着替えをすました京は男子トイレのドアを開けた。平凡な日常があっという間に終わりを告げたとも知らずに。

 ボウリング場は、「凄惨」以外に相応しい言葉が見つからないほど大量の血肉にまみれていた。バラバラになった人々を見ながら呆然と立ち尽くしていると、ミントの着ていたTシャツがぐにゃりと動き始める。次の瞬間、恋香の体は腰の位置で真っ二つになっていた。巨大な口と大きな歯を持つ“Tシャツ”によって喰いちぎられたのだ。絶望を感じる京にさらなる恐怖が襲いかかる。自身が着ていた罰ゲームTシャツが彼に寄生し、体と同化してしまっていたのだ。不安と恐怖で青ざめている京にTシャツは淡々と話しかける。

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人間は衣服を“着ている”のではない。“着させられている”のだ。我々に。(中略)
今の個体数ならば、全人類を我々の手足のごとく操ることができる。すなわち、この惑星の支配者に成り替われるということだ。

 本作は、衣服たちが人間を襲うパニックホラーマンガだ。テーマの斬新さや奇抜さからコミカルな描写をイメージしてしまうが、人間が喰いちぎられるシーンや飛び散る肉片の表現はかなりグロテスク! ビロビロに裂けた首やお腹から飛び出ている腸など、ホラー好きも思わず目を覆いたくなるような表現が多い。スプラッター作品に耐性がある“ツワモノ”に挑戦してほしい作品だ。

文=山本杏奈