「嫁をネットで監視する義母」「黒髪の子を生んだ親は無計画」!? 素晴らしき未来が悪夢に激変…本当にありそうで怖いSF短編集

文芸・カルチャー

2019/9/16

『ファミリーランド』(澤村伊智/早川書房)

 30年後、50年後、100年後の世界。想像はつかなくても、明るく幸せな未来を期待する人は多いだろう。

 少なくとも、確実に技術は進化している。数十年先の未来には、まるでマンガの世界でしかなかった、夢のように便利な日常が待っているかもしれない――。

『ファミリーランド』(澤村伊智/早川書房)は、そんな素晴らしき未来が舞台でありながら、悪夢を見たときのような後味の悪さが待っているSF連作短編小説集だ。著者の澤村伊智は、日本ホラー小説界期待の新星。デビュー作『ぼぎわんが、来る』が昨年、映画化(中島哲也監督『来る』)されたことでその名を知った人も多いだろう。

 本書には、まるでイヤミスを読んだような後味の悪さと、不気味なリアリティがある。技術が進んだ少し先の未来でなら、本当に起こりそうで怖い。そんな“家族”の物語が詰まっている。

「コンピューターお義母さん」は、義母から嫁いびりを受ける主婦が主人公だ。義母は遠く離れた老人ホームにいながら、ネットデバイスを駆使し、四六時中、主人公のことを監視している。同居していなくても、常に恐ろしい義母が家に「いる」世界が舞台だ。

 家のどこにいても気が抜けない、未来の嫁いびりは、いっそギャグかと思うほど激しく、突き抜けている。しかし「きっと寂しいんだよ、母さんは」「実害はないんでしょ?」「それは広い心でさ」という、実社会とちっとも変わらない夫のフォローに一切笑えなくなる女性読者は多いかもしれない。そして最後には、男性ですらヒヤッとする結末が用意されている。

「翼の折れた金魚」の舞台は、コキュニアと呼ばれる薬を使った計画出産が当たり前の未来社会。計画出産による子どもは知能が高く、金髪と青い目をもって生まれてくる。

 一方で、薬を使わない無計画出産で生まれた子どもは、黒髪・黒目という容姿だ。知能は計画出産児よりも劣る。無計画出産児はデキオ、デキコと差別的な呼ばれ方をし、社会の風当たりも冷たい。教え子には分け隔てなく接しようと努力する男性教師の主人公ですら、内心では黒髪・黒目の子を嫌悪している。

 本作の世界では計画出産なら“いい親”、そうでないと無責任な“悪い親”というレッテルが貼られる。“いい親”かどうか、本来判断するはずの子どもの意思は、まるでない。ある意味で子どもの“容姿”を巡り、対立し合う大人たちの様子に、親の愛情とはいったい何だろう…と、悲しい余韻が残る作品だ。

 このほか本書には、身の回りの世話を甲斐甲斐しく焼く鳥型ロボット(「サヨナキが飛んだ日」)、コンピューターが理想的な相手を探し出す婚活サービス(「マリッジ・サバイバー」)など、夢のある技術が登場する未来の物語が全6編収録されている。

 本書で描かれる未来は、文句なしに便利だ。面倒なことはすべてロボットがやってくれる。コンピューターに任せておけば、自分の頭を悩ます必要もない。まさに“夢のような世界”である。

 しかしそんな素晴らしき未来を悪夢に感じさせるのは、革新的な薬でも、ロボットでもない。どんなに技術が進化しても、根本的には何も変わらない人間という存在が、純粋にホラーだ。

 今よりどんなに便利な世の中になっても、変わらず偏見や差別は生まれてくる。嫁姑問題や毒親など、こじれた家族関係に悩まされる人は想像以上に多い。本作には、そう予感させるだけのリアリティがある。

 少なくとも技術の進化が未来の明るさや人の幸せを決定づけるわけではない、ということは肝に銘じておきたい。そして、今を堅実に生きよう。そう思わせる1冊だ。

文=ひがしあや