引き継ぎもロクにせず会社を“バックレ”るイクメン、遅刻や欠勤を繰り返す新卒…「モンスター部下」が増殖中

ビジネス

2019/9/17

『モンスター部下』(石川弘子/日本経済新聞出版社)

 上司のパワハラやセクハラに悩まされるブラック企業が問題視され始め、ようやくメディアで激しく糾弾されるようになった。長時間労働を奨励してきた日本社会の悪習の1つであり、今すぐ是正すべき社会問題だ。

 ところが、だ。ある社会問題が可視化されると、別の社会問題も徐々に見え始めてくる。それが『モンスター部下』(石川弘子/日本経済新聞出版社)でたっぷりと解説されていた。今、世の職場では、パワハラやセクハラを盾に非常識な言動を繰り返す「モンスター部下」が増殖しつつあるという。悪夢のような「逆転現象」だ。その驚くべき内容を少しだけご紹介したい。

■あいた口が塞がらないモンスター部下の事例

 本書では「モンスター部下」たちが繰り広げる“幼稚”な事例をいくつも取り上げる。たとえば「謎の欠勤を繰り返す部下」だ。

 不動産会社に新卒で入社した「A男」は、人懐っこく、仕事に積極的に取り組む営業社員だった。しかしお腹が痛い、熱がある、アパートで水漏れがしたなど、さまざまな理由で遅刻や欠勤を繰り返していた。上司である主任が「体調管理も仕事のうちだぞ」とたびたび諭していたが、行動が改善することはなかった。

 決定的だったのは、お客さんへの物件案内をすっぽかしたこと。当然クレームを言われ、代わりに主任が平身低頭で謝罪。その後、あわててA男に電話をかけると、「祖父が亡くなりまして…」と返答。うーん…どうもウソくさい。それでも主任はA男を優しく諭して、「粘り強く指導していこう」と気を引き締めたのだった。…が、驚くべきことにA男は、このあと退職代行業者を使って退職してしまう。連絡を取ろうとしてもナシのつぶて。ついにその理由を知ることもなく、主任は寂しさと虚しさを覚えるだけだった。

 すでにあいた口が塞がらない読者も多そうだが、これは本書で取り上げる事例の序の口だ。もう2つの事例のハイライトシーンをご紹介しよう。

 広告代理店に勤めるK子は、仕事と育児の両立を目指していた。しかしその実態は、育児を理由に仕事を周囲に押し付ける社員だった。突然電話で「今日は保育園の七夕祭りだから休みます」と上司を困惑させ、「スーパーが混んでいたから」という理由で昼休み以降を欠勤。「育児を理由に」というより「育児を盾に」好き放題している節がある。自分の都合で突然休むK子に同僚はとても迷惑していた。上司がそのことを注意すると、なんとK子は人事部に「マタハラを受けた」と相談。同僚は仰天する事態となった。

 システム会社のH本にいたってはもっとひどい。K子と同じくイクメンとして仕事と育児の両立を目指していたが、とにかく仕事の進め方がいい加減。それを上司が注意すると、伝家の宝刀「働き方改革」を持ち出して、話の通じない反論を展開する。さらに突然の退職。引き継ぎもロクにせず“バックレ”てしまう。極めつけは、チャットメッセージで同僚にこぼしていたグチだ。

「取引先のK島、マジでむかつく。プロジェクトあえて手をつけずに放置していくつもりww」
「引き継ぎとかシラネ。どうせ責任取るのはS山じゃん。俺はメンタル不全でバックレ予定」

 もはやモラルの欠けらもない。ハラスメントや働き方改革を逆手に取った、驚くべき実態だ。本書は、この強烈なモンスター部下が増殖する日本社会に警鐘を鳴らしている。それにしてもなぜ「モンスター化」する部下が増えているのだろうか?

■幼稚化する日本社会

 著者はその理由を「日本社会が幼稚化している」と指摘する。一部の大人たちが物事を深く考えず、「白か黒か」「セーフかアウトか」といった分かりやすい価値基準で動いているのだ。

 したがって行動も「損か得か」という自分本位なものになりがち。だから「自分の得にはならないけれど、誰かのために行動する」ことがバカバカしく感じる。「自分は損したくない」「自分がやらなくても誰かがやるだろう」という無責任な行動を平気でとる。

 本来、物事は白と黒のまざったあいまいなものが大半で、多面的に見ないと本質が見えてこない。多数の人と関わり合う社会を生きるには、目の前のあいまいな出来事を深く考えて、自分なりの答えを出して行動する“心の忍耐強さ”が必要だ。本書を読む限り、多くのモンスター部下は、思考が短絡化しているのではないかと感じる。

 では、なぜ「幼稚化する大人」がたくさん生まれてしまうのか。それは社会経済情勢の変化、チャットアプリによるコミュニケーションの平易化、SNS社会が生み出す暴走する承認欲求など、さまざまな要因がある。本書ではこれらを詳しく解説しており、どれも思わず首を縦に振って納得するだろう。どうやら社会構造の変化が大きな要因であり、モンスター部下は今後も続々と生まれそうだ。おぞましい。

■モンスター部下は何かしらの欲求不満を抱えている

 このほか本書では「舌打ちに書類投げ…成果を出さず不機嫌をまき散らす50代部下」や「社内でダブル不倫をしたのにセクハラを訴える女性モンスター」など、目を覆いたくなるような驚きの事例を取り上げる。

 ここで読者が気になるのが、モンスター部下への対処法だろう。彼らの大半は常識的な話が通じず、平行線をたどりがち。だからこそ問題行動を繰り返す部下に隠された「何らかの欲求不満」を見抜くことが重要だという。

 たとえばある部長は、営業社員として優秀だったが、管理部の業務を任されるようになると、周囲を無能呼ばわりし、部下にパワハラを繰り返すようになった。上司である執行役員が苦言を呈しても直らない。

 よくよく話を聞いてみると、不慣れな管理業務を任され、自分の能力を誇示するために周囲を無能扱いしていたのだという。不安や自信のなさ、歪んだ自己愛が問題行動を起こさせていたのだ。このように原因が分かれば、ある程度の対処が可能になる。

 著者はモンスター部下を主な3つに大別。彼らがどんなタイプなのか見抜く方法と対処法を解説する。本書を読むと、部下との関係に悩んでいた職場に光明がさすかもしれない。

 SNSが普及したことで個人の声がメディアに届くようになり、ブラック企業が少しずつ淘汰され始めている。これ自体は素晴らしいことだが、それを逆手に利用するモラルなき社員も登場し始めた。本来ならば問題行動を起こす社員はすぐに処分を受けるはずが、昨今の人手不足による売り手市場が嫌な追い風になっているのだろう。

 本書を読んでいると、「若い世代のモンスター部下が増えてきた」というより、「世代に関係なく自分勝手で面倒な人が日本中で増えてきた」という印象を受ける。ちまたで見かける悪質クレーマーがまさにそうだ。彼らの満たされない心はどうやって埋められるだろうか。どうすればモンスター化した人々と手を取り合って生きていけるだろうか。

文=いのうえゆきひろ