大ヒット7万部突破!! 愛する心が時を超えて起こす奇跡に、涙が止まらない──『記憶喪失の君と、君だけを忘れてしまった僕。』

文芸・カルチャー

2019/9/21

『記憶喪失の君と、君だけを忘れてしまった僕。』(小鳥居ほたる/スターツ出版)

 いつのまに大人になってしまったんだろう、と思うことがある。幼いころは、夢がたくさんあったのに。お花屋さんになりたい、パン屋さんになりたい、お医者さんになりたい。今だって、綺麗なフラワーアレンジメントを見て、素晴らしくおいしいレストランで、医療もののテレビドラマに興奮して、そんなふうに生きられたらなとは思う。けれど同時に、諦めることも覚えてしまった。こんな仕事、私にできるはずがない。特別な才能のない自分は、可もなく不可もない、今の生活を続けていくのだ……。

『記憶喪失の君と、君だけを忘れてしまった僕。』(小鳥居ほたる/スターツ出版)の主人公・小鳥遊公生も、そんな大人になりかけている大学生だ。

 講義を終えた公生は、大学付近の牛丼屋で昼食を済ませたあと、ひとり暮らしのアパートへと戻る。大学と家の往復、なんの目的もなく過ごす日々。卒業後はどんな仕事に就いているのだろう、そのとき、そばに支えてくれる人はいるのだろうか。将来のことを考えると不安になってしまうから、ひとまずはアパートへ帰るという目標だけを掲げて歩く。が、見慣れた住宅街を抜け、見慣れた角を曲がった公生は、見慣れないものの出現に足を止めた。アパートの前に、セーラー服姿の女の子が倒れていたのだ。

 長い髪、長い睫毛、宝石のように輝く瞳。華怜と名乗った美しい彼女に、公生は目を奪われた。いや、奪われたのは、目ばかりではない。心までも、すでに彼女のものだった。ひと目惚れというやつだ。しかし彼女は、頭を強く打っており、自分の名前以外のすべてを忘れていた。病院か警察に行こうと勧めても、華怜は嫌だと首を振る。そればかりか、なにかに怯えるような彼女の態度を慮って、公生は、記憶が戻るまでのあいだだけ、彼女を家に住まわせることにした。

 着替えを買ってやれば愛らしい笑顔を見せ、食事をすれば食べ物の好みの一致ぶりに驚く。出会ったばかりだとは思えないほどの親密さを覚え、公生は華怜に惹かれていった。一方で、華怜の家族は見つからない。それらしい少女が事件に巻き込まれたというニュースもない。けれどすぐに、ふたりにとって、華怜がどこの誰であるかということは問題ではなくなった。公生は、ひとりの女の子として華怜を愛していたからだ。今や公生は、華怜のおかげで「小説家を目指す」という夢を取り戻し、華怜もまた、そんな公生を支えて生きたいと願うようになっていた。

 この幸せな日々が、永遠に続けばいい──だが、そんなふたりをあざ笑うように、華怜の記憶が戻ってくる。その記憶には、ふたりの仲を決定的に引き裂く、どうしようもない真実が含まれていて……?

 本作を読んでいると、愛するということには、諦めないということも多分に含まれているような気がしてくる。そして愛の対象は、人だけに限られているわけではない。本作は、時を超え、誰かを、なにかを愛する人の心が起こす、壮大な奇跡の物語だ。諦めかけた愛を未来へとつなげられるかどうかは、自分自身の心にかかっているのかもしれない。

文=三田ゆき

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