規則だらけの超名門校で出会った麗しきルームメイト。ぼっち少年の青春が、箱庭のなかで動き出す!『マオの寄宿學校』

マンガ

公開日:2019/9/20

『マオの寄宿學校』(安斎かりん/白泉社)

 ひとりの時間が好きだからといって、ひとりで生きていけるわけじゃない。人間関係に煩わされるくらいなら、趣味に没頭して心をときめかせていたほうがいい。それは確かだ。だけど友達がいなくていいわけじゃない。一緒にいると居心地がよくて、趣味嗜好は異なってもお互いを尊重できて、ときにめんどくさいことがあっても、愉しさのほうが上回る――そんな相手がいてくれるなら。というのが本音なんじゃないだろうか。『マオの寄宿學校』(安斎かりん/白泉社)の主人公、真生とルイのように。

 育てていたバラの苗木、通称ウエッキー君だけが唯一の友達だった少年・真生が編入することになった高校は、大正時代から続く格式高き超名門。東京ドーム43個分の敷地と重要文化財の木造校舎、関係者以外立ち入り厳禁、独自の文化が醸成される閉鎖空間だ。その特別感に憧れて入学することになった妹と家族に友達ゼロの身の上を心配されて、流れで編入することになったのだが……コミュ障の人間にいきなり全寮制はハードルが高い。

 マンガで読むぶんには楽しいが、自分がそこにいけと言われたら正直、ごめんこうむる。しかも血気盛んな10代の男子たちの集合体である。騒がしく(賑やかともいう)、粗雑で(おおらかともいう)、遠慮のない(気さくともいう)彼らの洗礼をさっそくあびた真生を待ち受けていたのは、ひとこともしゃべらないルームメイト、麗しき美形ハーフのルイだった。

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 海外では日本に帰れといわれ、日本にくれば外人と敬遠される。唯一の身内である祖父を亡くし、自分の居場所をみいだせなくなっていたルイと、望んでもいない場所にほうりこまれた真生。ひとりでいる時間の大切さ、ぶしつけに心を荒らされることの不快さを知っている2人だからこそ、互いに気遣いと遠慮を重ねながら、ともに過ごすことで心の穴を埋めていく。

 まあ、ルイのほうはしゃべってみれば、毒舌・傲岸不遜のオレ様男だったわけだが、見た目で区別されることが多かったぶん、そして家族のない孤独を味わっているぶん、実は真生より繊細だ。真生が差し出したバラ「ルイの涙」によってわずかに潤った彼の心は、これまでの反動で誰より生き生きと瑞々しく動き出す。

 突如、「学園のキングになる」と言い出したルイ。キングといっても中二病のたぐいではなく、学園の実権を握りたいということなのだが、そのための一歩が監督生のファグ(お手伝い係)になること。やはり気遣い屋で、誰よりも優しい先輩・ユキと出会い、真生の世界は少しずつ開かれていく。さらに真生&ルイに感化されて、ユキもまた元ルームメイトのアスカと唯一無二の友情をとりもどしていく。少年たちが互いに影響を及ぼしあい、足りないところを補いあいながら、一方的に受け取るだけではない関係を築いていく姿はとても尊い。

 編入早々、真生が出会った憧れの女子が実はルイの×××だったという、波乱を残して終えた1巻。箱庭で展開する少年たちの青春から、まだまだ目が離せない。

文=立花もも