取引先でロボットが人を襲った⁉ うちのポンコツロボットには不可能です!

文芸・カルチャー

公開日:2019/9/26

『お騒がせロボット営業部!』(辻堂ゆめ/文春文庫)

 今や、ロボットやAI(人工知能)は身近な存在だ。2014年には、ソフトバンクがAI搭載ロボットである「Pepper」を発表し、2017年3月末時点で2000社以上の企業に導入された(ソフトバンク公式HPより)。これまで人が行っていた仕事をロボットに任せることで、人手不足の解消に期待が高い。

 しかしその一方で、AIに人間の仕事が奪われるのではないかと心配する声も上がっている。さらには、SF映画のように人間がAIに支配される不安に思う人もいるようだ。そんな、今大注目のロボット業界を描いたのが、『お騒がせロボット営業部!』(辻堂ゆめ/文藝春秋)だ。

 本書の主人公は、社会人2年目の外崎朝香。メガシステムテクノロジー株式会社という中小企業のロボット事業部・営業課に所属している。彼女の仕事はパティという人型ロボットを法人相手に売り込むこと。しかし、このパティは性能が低い上に外見もダサいため、なかなか売れずに苦労していた。

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 そんなある日、取引先からパティが事件を起こしたと連絡が入る。なんと、パティが失踪し、車に傷をつけ、詐欺に加担し、ついには殺人まで犯したというのだ。しかし朝香は、性能が低いパティにそんな能力はないと自信満々。開発課の怜央とともに事件に立ち向かっていく。果たして、パティは危険なロボットなのだろうか。元ロボット事業部勤務の作者がロボットのリアルな「今」を描いた、お仕事小説だ。

 騒動を巻き起こすパティは、社長の一存で製作・販売が決まったロボット。頭にはちょんまげのような黒い角がついており、垂れ目に太い眉という公家顔で、かわいいとは言いがたい外見をしている。また、大企業に比べて圧倒的に予算が少ないため、基本機能が貧弱で音声認識の精度も低い。

『まずは、お名前を教えてください。できれば、下の名前がいいかナ』
「ええと……朝香、です」
『エート・アサカさん、ですネ』
「違います」
『ではもう一度教えてください』
「朝香」
『アッカさんですネ』
「違います」
『ではもう一度教えてください』
「あーさーかー」
『アッサーカーさんですネ』

 それでも、他社に比べて安価であればまだ売れただろう。しかし、基本機能に搭載されている会話のバリエーションは限られており、店舗に応じた挨拶や案内をパティにさせるためには、数十万円から数百万円かけて専用のアプリを開発しなければならない。さらにはバグも多く、突然初期化してしまうこともある。

 朝香をはじめとしたロボット事業部の営業課は、みなパティのダメっぷりに頭を抱えていたのだが、顧客側のロボットへの期待は高い。ロボットならなんでもできる、人間の代わりを務められると思っているのだ。顧客がイメージするロボット・パティの姿と、実際のパティの能力には大きなギャップがある。

 自分で学習することができるAIと違い、ロボットはプログラムされた動作しかできない。AIとロボットは異なる存在なのだ。パティはAI非搭載のロボットなので、プログラム外の行動はできない。もちろん、意思を持って事件を起こすことも不可能なはず。では、パティが起こしたとされる事件は誤作動なのか、それとも偶然の結果なのだろうか。

 また、事件の真相だけでなく、主人公の朝香と開発課・怜央の若手コンビも本作の注目ポイントだ。朝香はイケメンの怜央にひそかな恋心を抱いている。しかし、肝心の怜央はロボットのことしか頭にないロボットオタク。愛するパティが事件を起こしたと知り、真相解明のために大活躍してくれるのだが、自分の美貌に無自覚な彼はいろいろな意味で朝香をドキドキさせる。パティだけでなく、人間の女性に興味がない様子の怜央にも振り回される朝香。彼女の恋の行方も読みどころだ。

 なんでもできるロボットができるのはまだまだ先のことだろうが、もしかしたら、どこかでこのような出来事が本当に起こっているのではないかと思わされた。読み始めの頃はパティのあまりの性能の低さにあきれてしまうが、読み進めるにつれてだんだんパティがかわいく見えてきて、朝香たちを応援したくなる。ロボット好きの人だけでなく、ロボットやAIについてあまり詳しくない人でも楽しめるだろう。

文=かなづち