ヤクザ映画に追い風!? 令和の時代に「任俠」シリーズあり! 世の中の閉塞感に風穴を開けるのは“阿岐本組”かもしれない!

文芸・カルチャー

公開日:2019/9/26

 ヤクザはヤクザでも、そんじょそこらの堅気より善人でお人好し。困っている人を見ると放っておけず、世直しに命をかけるあまり組員たちへの無茶振りもハンパない……。

 そんな愛すべき親分率いる阿岐本組の悪戦苦闘ぶりが痛快な「任俠」シリーズ。『任俠書房』『任俠学園』『任俠病院』『任俠浴場』とこれまで発売された文庫本はシリーズ累計65万部を超え、映画化を期待する声も多かった。

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 しかし、「暴力団対策法や暴力団排除条例が施行された影響で、大手映画配給会社は軒並みNG」だったと語るのは、原作者の今野敏さんだ。ところが世の中の風向きが変わり、ヤクザ映画に対する逆風もむしろ追い風にする勢いで、シリーズ2作目の『任俠学園』を実写化した映画が、9月27日に公開される。

 文化人への憧れが強く、古き良き昭和の価値観を重んじる阿岐本組長は、これまでに倒産寸前の出版社、学校、病院、銭湯の経営立て直しを引き受けてきた。そのたびに振り回されてきたのは、親分と組員たちの板挟みで右往左往するナンバーツーの日村、若い衆を仕切る喧嘩っ早い三橋、女たらしのヒモ男志村に元ハッカーの市村といったアクの強い輩たちだ。

 この阿岐本組が無理難題の揉め事を解決するたびに、普通の顔をした堅気たちの醜いエゴと欲が暴かれていく。その胸のすくような面白さもさることながら、人生訓のような決め台詞がポンポン飛び出す阿岐本組長の義理人情にあつい人柄にもぐっとくる。

 そして誰よりも共感度が高いのは、貧乏家庭に育ち自暴自棄の不良になっていたところを親分に拾われた日村だろう。真面目で不器用で心配性で、中間管理職のように気苦労の多い日村の姿は、見ていてハラハラするばかり。それでも親分や組員たちとの絶妙なコンビネーションで、最後はきっちり落とし前をつけてくれるから続きを読まずにはいられなくなる。

 映画『任俠学園』では、そんな親分役の西田敏行さんと日村役の西島秀俊さんの丁丁発止の掛け合いを存分に楽しめる。映画の撮影中、「(他のキャストから)飛んできた流れ弾をアドリブで返すのに必死でした」と、本誌インタビューで語っている西島さんの本領発揮の姿は一見の価値ありだ。

 秩序や規範を重んじる「全員善人」のヤクザと、そしらぬ顔で悪事を働く腹黒い堅気たちのバトルは、今後どんな展開を迎えるのか? 映画続編への期待も膨らむ一方で、読売新聞オンラインで連載中の「任俠シネマ」の行方も気になるところだ。令和の時代に、「任俠」シリーズあり。世の中の閉塞感に風穴を開けてくれるのは阿岐本組かもしれない。

文=樺山美夏

『任俠学園』(今野敏/中央公論新社)