バツイチのシングルマザーが、得意の家事で奇跡を起こす!『今日は心のおそうじ日和 素直じゃない小説家と自信がない私』

文芸・カルチャー

公開日:2019/9/27

『今日は心のおそうじ日和 素直じゃない小説家と自信がない私』(成田名璃子/KADOKAWA)

 突然ですが、掃除は好きですか? 私は微妙です。自宅を綺麗にしたところで、誰も褒めてくれないし……でも、たまに大掃除をしたあとなんかは、なんだかいい気持ちになるんですよね。どうしてだろうと思う心を解き明かしてくれたのが、『今日は心のおそうじ日和 素直じゃない小説家と自信がない私』(成田名璃子/KADOKAWA)という作品です。

 主人公の涼子は、寿退社して以来、10年間家を切り回してきた専業主婦。小学3年生になる娘に弟妹をと考えていたにもかかわらず、夫の浮気が発覚し、シングルマザーになってしまう。夫の相手は、涼子とは正反対のキャリアウーマンだそう。身を寄せた実家でも、すでに兄一家が生活していて、涼子と娘の居場所はない。早いうちに身の振り方を決めなくてはと思うものの、家事しかしてこなかった自分に、なにができるというのだろう。動き出す勇気もなく、得意の家事に逃げていた涼子に、願ってもない仕事の話が舞い込んだ。隣町に住む小説家が、住み込みの家政婦を探しているというのだ。

 50代に入ったばかりだというその小説家・山丘は、実年齢よりずっと若く見た目もいいけれど、よれよれのジャージ姿に寝癖のような髪型をした気難しそうな男性。これまで雇った3人の家政婦は、飼い猫との相性が悪く辞めていったそうだが、彼のもとで働きはじめた涼子は、すぐにその真相を知ることになる。彼の家は、足の踏み場もないほどのゴミ屋敷だったのだ!

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「早々にばれてしまったようだな」
 先生が、昨日と同じジャージ姿で(おそらく数日着替えてもいない)ぬっと現れ、何やら皮肉な表情を浮かべた。
「大抵の人間は、この段階で匙を投げる。君も、帰りたいなら帰ってくれて構わない。私は、この状態に満足しているんだからな。妹が余計な心配ばかりして家政婦など送り込んでこなければ、もっと快適だ」

 必要とされない場所に留まるなんてつらいだけ、この仕事はやめておくべきだとわかっている。それなのに、涼子の中では妙な葛藤がはじまった。みんなしてバカにして。料理と掃除しかできない私のことを、ちょっと脅せば離婚届に判子を押したり逃げ帰ったりするような、憐れな女だと思っているんでしょう──そう、涼子は怒っていたのだ。元夫に、山丘に、そして彼らが思っている通りの存在でしかない自分に。ついに吹っ切れた彼女は、「帰りませんよ。むしろ、徹底的に掃除させていただきます」。かくして涼子は、他人との接触を拒む小説家の生活に、唯一のスキル・家事をもって踏み込んでいくことになるのだが……?

 掃除とは、「要らないものを捨てること」、つまり「持っているものの中から大切なものを選り分けること」。そう考えるなら、住み家だけでなく生きることにも、たまには掃除が必要かもしれない。悪しき生活習慣、増えすぎたスマホの連絡先、根拠のない思い込みを捨て、身動きできなくなるほど抱え込んだものを整理すれば、大切な人との縁や、想いを磨くための余裕ができる。

 人生の“おそうじ”を後押ししてくれる、爽やかな読み口の本作。この優しくあたたかい再生物語の読了後は、家事の好き嫌いにかかわらず、心の掃除をしたくなっているはずですよ。

文=三田ゆき