超一流の成功者だけが見つけ出す“第3のドア”――若き大学生が挑んだ“何者”かになること

ビジネス

2019/9/30

『サードドア 精神的資産のふやし方』(アレックス・バナヤン:著、大田黒奉之:訳/東洋経済新報社)

 本書の著者アレックス・バナヤンは、人生、ビジネス、成功をナイトクラブに例えていう。「そこに入るためには常に3つのドアがある」と。

 ファーストドアはみんなが並ぶ正面入り口。行列はとても長くてなかなか入り口までたどり着くことができない。セカンドドアはVIP専用の入り口。ここは金持ちやセレブ、特別なコネがある人しか利用できないドアだ。そして、最後が“サードドア”。いつだってそこにあるのに、多くの人が気づいていないし、誰も教えてくれない秘密のドアだ。ビル・ゲイツやスティーブン・スピルバーグをはじめとする世界で活躍する超一流の人々は、サードドアを自分の力で見つけ出し、こじ開けたからこそ、その唯一無二のキャリアと成功を手にしたのだとアレックスはいう。

 では、このサードドアにたどり着くためにいったい何をすればいいのだろうか? 本書『サードドア 精神的資産のふやし方』(アレックス・バナヤン:著、大田黒奉之:訳/東洋経済新報社)にその具体的なノウハウやテクニカルなメソッドのようなものを期待すると、ちょっと肩すかしを食らうかもしれない。この本で描かれるのは、いわゆる自己啓発的な方法論ではなく、まだ“何者”でもない若者が、“何者”かになろうともがく、青春の冒険と成長の軌跡だからだ。

 ペルシャ系ユダヤ人の移民の子として育ち、「将来は医者になってほしい」という家族の期待を一身に背負って、南カリフォルニア大学に入学したアレックス。しかし、日々の勉強には身が入らず「自分はどう生きたいのか」という実存的な悩みに葛藤していた彼は、ビル・ゲイツの伝記を手にしたことをきっかけに自分の“ミッション”を見つけ出す。それは世界の成功者や有名人たちにインタビューをして、今日に至る前、“何者”でもなかった駆け出しの頃に「何をしたか」を聞き出し、自分と同世代の若者たちへのアドバイスとして、1冊の本にまとめるというものだった――。

 アレックスの若者らしい“自分探し”的な悩みは多くの人が直面し、また通り過ぎてきたものだろう。成功者や有名人に“成功の秘訣”を訊くというアイデアも目新しいものではなく、むしろありきたりだ。アレックス自身にも、特別に秀でた才能やコネがあるわけではない。大事な場面でセレブを前にして“フリンチ=萎縮”して動けなくなることもある、そんな普通の若者だ。しかし、アレックスが凡百の若者と違ったのは、このミッションをやり遂げると決意してからの覚悟と行動力、そして粘り強さだった。

 アレックスは相手がうんざりするほど売り込みの“コールドメール”を繰り返し送りつけたり、“インサイドマン(内部の関係者)”を見つけてしつこくインタビューのセッティングを頼み込んだり、ちょっと強引すぎるのでは…と感じてしまうほど必死にミッション実現の突破口を開こうとする。そして、彼は実際に数多くの著名人たちと対面を果たす。

 そんなわけで本書には、ビル・ゲイツ、スティーブ・ウォズニアック、ジェシカ・アルバ、レディー・ガガ、ラリー・キング、クインシー・ジョーンズなど、さまざまな成功者たちへのインタビューが次々と登場する。しかし、それで「18歳の大学生がセレブへの突撃インタビューで聞き出した“成功の秘訣”」など、わかりやすい構図に収まらないのが本書のおもしろいところだ。というのも、アレックスのミッションは決して順風満帆ではなく、いくつもの失敗があり、その失敗についてもすべて赤裸々に描かれているからだ。中には読んでいるこちらが身につまされるような大失敗もある。しかし、アレックスは時に落ち込みながらも、ミッションの達成を諦めず、さまざまな著名人へのインタビューを重ねて、自分自身を成長させていく。

 本を読んだ誰もがすぐ真似できる“成功の法則”みたいなものは本書にない。もちろん、インタビューでは現代社会を生きていくうえでとても有益なものになる言葉も多く引き出されている。しかし、読者が自分だけのサードドアを見つける本当のヒントになっているのは、著者アレックスの遍歴そのものなのだ。

文=橋富政彦