『ONE PIECE 94』激突するカイドウとビッグ・マム! スマイルの副作用を利用するオロチの悪行…想像超えのストーリー展開!【ネタバレあり】

マンガ

公開日:2019/10/4

『ONE PIECE 94』(尾田栄一郎/集英社)

「そうきたかー!」。最新刊『ONE PIECE 94』(尾田栄一郎/集英社)を読んだ直後、口をついて出た感想がこれだった。麦わらの一味の冒険を追いかける途中でいくつも目にしてきた伏線。「こうやって回収されていくのかー!」と、良い裏切りにあった気分だ。

 憎き将軍オロチを倒しワノ国を救うため、新世界に君臨する四皇カイドウを倒すため、錦えもんをはじめとする侍たちと共に着々と“討ち入り”の準備を進めるルフィ一行だったが、あちこちで想定外が連発。目まぐるしい攻防が続いていた。

 94巻は、ワノ国の人々から愛された「白舞」の大名「康イエ」の処刑後から始まる。そこで明かされたのが、将軍オロチの許しがたい悪行だった。

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■人造悪魔の実「SMILE」の副作用を利用したオロチの悪行

 最強の海賊団を作るべく、人造悪魔の実「スマイル」に手を出したカイドウ。その実を食べた部下は、ゾオン系に似た力を得て凶暴化する。93巻までに登場したカイドウの恐ろしげな部下たちがそうだ。

 ところがスマイルには別の秘密、いや、リスクがある。人造悪魔の実によって力を得られる確率は10%。10人に1人しか成功しない。残りの9人は、海に嫌われて泳げなくなるばかりか、不完全な薬品の副作用で「怒り」や「悲しみ」の表情を失い、ただ「笑う」ことしかできなくなる。

 そして悲劇はここからだ。食べかけの果実に“副作用だけを伝達する効力”が残ることを知ったオロチは、都から出る“おこぼれ”の中に失敗作を混ぜた。おこぼれ町に住む人々にスマイルを食べさせようと目論んだのだ。貧しい彼らはいつも腹を空かせている。病人もたくさんいる。少々変なリンゴでも、おこぼれ町の人々は新鮮な食べ残しを喜んで食べた。たとえトノヤスが処刑されようとも人々が笑い続ける裏に、非道で許しがたい真実が隠されていたのだ。

そうだ皆の衆
笑ってあの世へ送ってやれ!!
これがワノ国!!
明るいワノ国じゃ!!

 オロチの外道な発言に、電伝虫で様子を見ていたカイドウさえも「趣味が悪い」と不気味に笑う。彼らの顔に貼りつけられた一生外すことのできない“お面”が、ワノ国の醜悪な一面を物語るようだ。この真実を知ったゾロは、怒りのあまりオロチに斬りかかるが……。

■“最悪の世代”のあのキャラクターが悲劇の再登場

 人造悪魔の実の悲劇は別のところでも起きていた。93巻から「兎丼」の囚人採掘場で、百獣海賊団の“大看板”クイーンの手によって処刑(というか修業)を受け続けるルフィとヤクザの大親分ヒョウ五郎。

 そこへ連行されてきたのが、ワノ国で辻斬りと恐れられ、将軍を笑ったおトコを殺す刺客でもあった“人斬り鎌ぞう”。そして93巻で脱獄を果たしたキャプテンキッド。人斬り鎌ぞうはなぜかずっと笑っている。「なぜこの2人が一緒に…?」「あのキッドが簡単に捕まったのか?」という疑問が思い浮かぶが、それもそのはず。

 なんと人斬り鎌ぞうの正体は、キャプテンキッドの一味で副船長のキラーだったのだ。彼もスマイルを食べさせられ、一生外すことのできない“お面”を被されていた。キラーの連行される様子を目にしたキッドが、海楼石を付けていることも忘れ、助けようとしたようだ。

 怒りで「何をされたらここまで変わり果てる」「誰がおれの相棒をこんな目に遭わせたんだ!!!」と歯を食いしばるキッド、涙を流しながら笑い続けるキラーの対比が辛い。わずかだが、52巻でキラーの華麗な戦闘シーンを目にしただけに、むごいという言葉が脳裏に浮かぶ。

■カイドウとビッグ・マムが激突する予想外の展開

 ワンピースという作品の恐るべき魅力は、ここで輪をかけるように大変な事態がさらに加わることだ。ルフィとヒョウ五郎の処刑(というか修業)を取り仕切るクイーンは、キッドとキラーも処刑することに決めた。ルフィの苦しむ反応を楽しもうとしていたのだが、ここで想定外が起きる。

 なんと四皇ビッグ・マムが処刑の場に乱入してきたのだ。あー…。そういえば92巻の終わりに、ビッグ・マムが記憶をなくしてワノ国の海辺に打ち上げられていたな…。それをたまたま拾ったのがチョッパーたちだった。

 もちろん大混乱が起きないわけがなく、ビッグ・マムたった一人のせいでここから急展開を迎える。さすが四皇といったところだろうか。その急展開の1つをご紹介するならば…カイドウとビッグ・マムが死闘を繰り広げることになる。両者が互いに武器を振り下ろす瞬間は圧巻。天が2つに割れる描写は絶望そのもの。これぞ紛うことなき化け物だ。

 こんなストーリー、誰にも予想できるわけがない。90巻でカイドウが電伝虫でビッグ・マムに「来るなら殺すぞ」と脅すシーンがある。この場面を見て「こりゃ四皇同士で死闘が始まるぞ!」と予想できた人は、きっと見聞色の達人に違いない。

 いずれにせよ、ルフィがカイドウに打ち勝つイメージがまったくわかない。ルフィは一撃で失神させられているからだ。ところが本巻の最後に気になるシーンがある。なんとカイドウに唯一傷をつけた“伝説の刀”を、ゾロが手にするかもしれないのだ。CP9編で愛刀「雪走」を失い、スリラーバーク編で名刀「秋水」を手に入れ、ワノ国編でこうつながるのか…。うーん、続きが気になる。早く95巻を出版してほしい。

 徐々に近づく年に一度の盛大なお祭りの日「火祭り」。その夜にルフィ一同はカイドウの根城である「鬼ヶ島」へ討ち入りを果たす。いよいよ錦えもんたちがオロチに天誅を下す瞬間が訪れる。20年前に見た絶望と違い、今回は麦わらの一味をはじめとする強力な味方がそばにいる。しかし相手は新世界をわがもの顔で支配する四皇カイドウ。ここから先のストーリーがまったく予想できない。

文=いのうえゆきひろ