亡き妻の命日に妹まで惨殺…連続殺人鬼「残虐魔」は自分のすぐ隣にいるかもしれない

文芸・カルチャー

2019/10/6

『異常者』(笹沢左保/祥伝社)

 今から17年前の2002年、ひとりの作家が天国へ旅立った。彼の名前は、笹沢左保。1961年に『人喰い』で日本探偵作家クラブ賞を受賞して以来、ジャンルにとらわれずに人間の心理を巧みに表現し、読み手の想像を覆すようなドラマティックな小説を多数世に送り出した。『異常者』(祥伝社)は、その中でもひと際強烈なインパクトを読者の心に残す作品。

 本作が文庫版として刊行されたのは30年以上前の昭和56年。本作は現在でもなお、ページを開いても古めかしさを感じさせない。むしろ、綿密に練られた重厚なストーリーに感嘆の声が漏れるほどだ。

■連続殺人鬼「残虐魔」の正体を暴け!

 本作の主人公は弁護士の波多野丈二。物語は、2年前に自殺した羽多野の妻・マチ子の命日に妹が殺されたという事件で幕を開ける。たったひとりの家族であった妹を手にかけたと思われるのは、世間でも話題になっている「残虐魔」。残虐魔は1カ月の間に4件もの殺人を犯している連続殺人犯だ。

 被害者はすべて女性。衣服は切り裂かれ、乳房と下腹部には赤いペンキを吹き付けられていた。そして、全裸か半裸のまま絞殺され、遺体には口紅や眼鏡ケースなど、その場で拾ったものを手あたり次第に挿入。性的犯罪の痕跡も見られた。

 発見された妹の遺体も、植え込みの葉が女性器に何度も押し込まれ、乳房から腹部にかけて赤いスプレーの塗料が吹きかけてあったため、残虐魔の犯行であることが判明したのだ…。

 羽多野は妻に続き、妹もつらい形で失い、深い悲しみに暮れる。そんな時、通夜の席で妹の遺影を熱っぽく見つめながら手を震わせていた怪しい男を見かける。倉沢という名前のその男は、妹の自宅近所に住んでいたことが判明。羽多野は倉沢に疑惑の目を向け始め、真相を解明すべく、警部補の友人・山城と協力して事件を調べ始めることにした。

 だが、その間にも残虐魔の犯行は止まらない。それどころか一夜の間に2人の女性を犯して殺すほどエスカレートし始める。ついには警察や新聞社へ自らの呼び名を「歪んだ真珠」に訂正しろとの要求を記した犯行予告を送り付けるまでに――。

■一見普通の人も、愛情を募らせ「異常者」に…

 犯人が望んだ「歪んだ真珠」という言葉には、果たしてどんな秘密が隠されているのか。息をつく間もなく次々と現れる容疑者たちに、読者は己の推理力を掻き立てられる。そして、二転三転するストーリーの裏に隠された異常な恋情と残酷すぎる真実は、「知りたくなかった…」と思わされるほど衝撃的だ。残虐魔の正体に辿り着いた先で羽多野は、それまでとはまた違った地獄の景色を目の当たりにすることになる。

 タイトルにある「異常者」の闇の深さを知ったら、人間という存在がつくづく恐ろしいものだと思えてならないはずだ。もしかしたら、そんな異常者はあなたの近くでも息をひそめているかもしれないのだから。

 誰かを深く愛することは、本来素晴らしいこと。だが、一方的で身勝手に深く想いすぎると、いつの間にか立ち入ってはいけない領域にまで入り込み、自分もまた「異常者」になってしまうかもしれないのだ。

文=古川諭香