15年ぶりに届けられる「稲盛哲学」の到達点

ビジネス

2019/10/7

『心。』(稲盛和夫/サンマーク出版)

 偉人たちの言葉は深い。言葉の中に哲学がある。誰もが偉人になれるわけではないが、偉人の言葉にふれ、味わうことで、その哲学にすこしでも近づくことができるかもしれない。

 京セラ・KDDIを設立した稲盛和夫氏は、数々の経営者から経営の神様といわれ崇められる人物。偉人といって差し支えないだろう。そんな氏がミリオンセラー『生き方』から15年ぶりとなる続編『心。』(稲盛和夫/サンマーク出版)を上梓した。氏80余年の人生を振り返り、多くの人たちに伝え、伝えたいただひとつのことを、研ぎ澄まされた言葉で綴っている。

 そのひとつのこととは、「心がすべてを決めている」という絶対法則だ。

 すべては“心”に始まり、“心”に終わる−−それこそが、私が歩んできた八十余年の人生で体得してきた至上の知恵であり、よりよく生きるための究極の極意でもあります。

 京セラは「京セラフィロソフィ」といわれる企業哲学によって発展してきた。フィロソフィは哲学の意味であり、京セラフィロソフィはそのまま稲盛氏の哲学ともいえる。

 京セラフィロソフィを形作る大きな要素のひとつは、「感謝」である。本書は、感謝の大切さを紙幅を割いて説いている。

 感謝は、例えば「ありがとう」という言葉で伝えることができる。本書は「ありがとう」とは「あるのが難しい」すなわちありえないことが起こっているという意味をもつ言葉であり、その意味を深く味わうことができれば自ずと口から出るものだと述べる。

 とはいえ、本書によると、自然体で感謝することは非常に難しい。困難なときには「なぜ自分だけがこんな目にあうのか」と不満を口にするばかりで感謝の心をもてない。よいことばかりが起きると、それを当たり前だと思い、それさえ不服として「もっと、もっと」と求め、感謝できない。

 感謝はよいものを呼び寄せる。また、起こった災難はこれまでにつくり出した「業」が現象として現れたものであるため、災難によって溜まった業が消えたということで、同様に喜び感謝すべきことなのだ。

 稲盛氏は、宗教的あるいは精神的な修行を続けてきた人であれば、何が起こっても感謝する心の姿勢が身についているものの、稲盛氏自身を含める“凡人”にはテクニックが必要だとする。

 それは、「いつ、いかなるときでも感謝するのだ」と理性でインプットしておくこと。つねに「ありがとう」といえる心の準備をしておくことが重要だという。

 本書は、この他にも、次世代を担う人たちが希望をもって生きていくための糧になることを願って、さまざまな言葉が掲載されている。経営者のみならず、社会人になりたての世代からベテラン世代まで幅広く稲盛哲学、いわば稲盛氏の心にふれてみてほしい。

文=ルートつつみ