親ががんになったら、子どもはどうするのが一番よいのだろう。がんと診断された親の気持ちがわかる本

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公開日:2019/10/8

『親ががんになったら読む本』(山口建著/主婦の友社)

 親ががんと診断されたら、子どもも当然、大きなショックを受ける。病状はどう進み、治療はどうなるのか、親のために何をしたらいいのか、どんな言葉をかけたらいいのか。戸惑う人も多いだろう。がんの患者さんを看病する家族、特に子どもたちを対象にした書籍が発売された。『親ががんになったら読む本』(山口建著/主婦の友社)だ。

 がんと診断された親自身は、表情や言葉にはあまりあらわさないかもしれないが、心身ともにダメージを受けて大きく動揺している。なんとか親を元気づけようとした、励ましやなぐさめの言葉が逆効果になることもあり、「がんばって」の言葉が思うようには届かないことも。

 一方で、気をつかって腫れ物に触るように接すると、かえって親が孤立感を深めることになってしまう。プライドを大切にしている親なら、病気に関して、子どもには心を開かないこともあるかもしれない。

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 著者が総長を務める静岡県立静岡がんセンターでは、過去数十年にわたって、1万人以上の患者さんから集めた声や悩みについて調査研究を行ってきた。がん患者さんの悩み全体の約半数を占めるのは「心の苦悩」(不安などの心の問題)なのだそうだ。注目したいのは、「子どもや家族が心配」「子どもや家族に迷惑をかけたくない」という声が非常に多いことで、悩み全体の順位で第3位に位置する。がん患者さんの生の声を、本書から抜粋してみる。

「同居している末娘は子どもが1人あり、私の看病と家事で思うように働けない。このまま親の世話で花である時を朽ちてしまうのはかわいそうでならない」

「末期がんとわかったので、娘に家内の面倒を見てもらうことにしたが、金銭的な問題で大きな負担をかける」

「家族のうち何人もがんと診断された。がん家系なのか? 子どもに迷惑をかける」

 がんになった患者さんを看病する家族にとって、一番大切なのは、患者さんの心のうちを理解することだ。親の気持ちをよく理解して、その心に寄り添い、ともに歩いていくつもりで接することができればベストだろう。

 ありがちなのは、心配するあまり、子どもが医師の代弁者のようにふるまうこと。
「先生が我慢するしかないって言ったでしょ!」
「効果が出るか出ないかやってみないとわからないでしょ!」
という突き放した言い方は、誰のためにもならない。

 患者さんに寄り添うとは、「じっくり聴くこと。気持ちを受け止めるだけでいい。アドバイスはいらない。家族が苦しみを分け合うことで、患者さんの闘病意識が高まる」と本書は説く。そばに寄り添って、じっと見守るということは、家族にとっても大変つらく、子ども自身の心も傷つくかもしれないが、患者さんにとってはそれが大きななぐさめになりパワーになるという。

『親ががんになったら読む本』は、患者家族支援における先駆者として評価される、静岡がんセンターの経験をもとに書かれている。2015年刊行の同名の書籍に、「診療プロセスの中で家族と患者さんが知りたいと思うこと」など最新の話題をプラスして、がんになった人の心の支え方を中心に、高齢者のがん治療や、信頼できる情報収集源リストなど最新情報を盛り込んだ、きめこまかい内容が特徴だ。もし、身近な人ががんと診断されたら、手にとってほしい1冊だ。

著者プロフィール
山口 建
静岡県立静岡がんセンター総長
慶應義塾大学医学部卒。国立がんセンター(現・国立がん研究センター)研究所副所長などを務め、1999~2005年に宮内庁御用掛を兼務。静岡県立静岡がんセンターの設立に携わり、2002年、初代総長に就任、現在に至る。厚生労働省がん拠点病院検討会委員を経て、2018年6月からがん対策推進協議会会長。