SNSで“幸せ投稿”を繰り返す妻と裏アカウントで愚痴を吐く夫…。偽キラキラ夫婦のゾッとする結婚生活の行く末は――!?

マンガ

公開日:2019/10/18

『夫婦別生』(竹充ヒロ/小学館)

 別々の環境で育った他人同士が、ある日を境に家族になる「結婚」。人によるとは思うが、正直、そんなに甘くはないと感じるのが本音である。ひょんなところから問題が勃発することも珍しくないし、共に暮らして初めて見えてくる欠点だってある。結婚生活を長く維持するには、お互いを思い合う気持ちや、歩み寄ろうとする努力は必須だと思う。条件や世間体だけを考えて結婚を決めるなど、筆者から見たらとんでもなく恐ろしい話で、ただでさえ苦労が多い結婚生活、できれば根底に愛がある相手と添い遂げてほしい…と、心底願ってしまうのだ。

 竹充ヒロさんの『夫婦別生』(小学館)は、一見、誰もが羨む理想的なキラキラ夫婦の闇を描いたマンガである。登場するのは、数年前に同じ会社内で出会い結婚した優大と美奈子。妻の美奈子は「周りから幸せそうに映ってないと生きてる意味ってないと思う」と本気で考える性格で、結婚後、専業主婦になってからは、SNSで夫婦の幸せをアピールすることに余念がなかった。夫の優大は、大手不動産会社で働いており、30歳にして年収は1000万超え。欲しい物はすぐに買ってくれるし、家事をしなくても文句を言わない。他人が羨む結婚生活を送らせてくれる上に、無害で扱いやすそうな人柄だからと美奈子は結婚を決めた経緯があった。

 そんなある日、美奈子は友人から「愚痴夫」というSNSの裏アカウントを見せられる。そこにつぶやかれていたのは、名前こそ出していないものの、明らかに美奈子への悪口ばかり…。美奈子がインスタで“幸せアピール”をすると同時に、優大は裏アカで強烈な愚痴を吐いていたのである。次第に愚痴夫のアカウントを覗くのが日課になり、夫の機嫌を取ることばかりを考えて不安定になっていく美奈子。そしてついに、「嫁との関係はもうダメかも」とつぶやかれたことに衝撃を受け、裏アカウントの存在を優大に問い詰める。しかし彼は、優しい顔のまま、SNSのことなど何も知らないと告げるのだった――。

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 本書に登場する人物は、美奈子を含め、全員がゾッとするような卑しい一面を持っている。皆の前では穏やかで、有能で、妻思いの優しい夫を演じながら、裏アカで本音を明かし、美奈子をコントロールしようとする優大。美奈子のインスタと優大の裏アカ、どちらも把握しながら、裏で嘲笑う友人。誰しもが自分の本音を相手に直接伝えることをせず、別の場所で鬱憤を晴らそうとしている。それが妙にリアルで、心がざわついた。

 SNSの裏アカウントで配偶者の愚痴をつぶやく行為は、実生活でもたまに見かけるが、その向こうで起きている人間模様を考えると、読後、背筋が寒くなった。物語は、途中から夫目線に切り替わり、意外な真実が明かされると同時に、予想を裏切る方向へと進んで行く。結婚は生活なので「好き」という気持ちだけでは成り立たないのは事実だが、その思いが結婚生活でいかに大切なものか、胃が痛くなるほど心に染み渡るマンガであった。

文=さゆ