子どもの問題行動は親が原因? 発達障害治療の第一人者が治りづらい子どもを分析

出産・子育て

更新日:2020/3/2

『スマホをおいて、ぼくをハグして!』(司馬理英子/主婦の友社)

 今から約20年前、ある1冊の本が話題になりました。『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)です。この本で、ADHDが日本で本格的に紹介され、幅広い認知につながりました。この本の著者は、発達障害専門医の司馬理英子さんです。発達障害専門クリニックを開き、多くの発達障害の子どもとその親と向き合ってきました。

 この20年、社会では発達障害が認知され、多くの支援が設けられてきました。発達に問題がある子どもは、地域の専門家に相談することや、司馬さんのような専門医に診てもらうこともできます。

 しかし、そんな司馬さんの目には、さらなる問題が見えてきた20年でもありました。

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 発達障害と診断され、さまざまな手を尽くしても行動が改善されない子どもの存在です。なぜそのような子どもがいるのか。その経験をまとめ、さらにこの20年の発達障害を取り巻く環境を本に記しました。

『スマホをおいて、ぼくをハグして!』(司馬理英子/主婦の友社)は、発達障害についての発信者である司馬さんにとって、新たな問題提起の1冊です。

■その問題行動は発達障害?

 家庭と学校での関わり方を配慮しても、薬剤療法を行っても十分な効果が現れない。発達障害の知見が深まる中、治療がうまくいかない、症状が改善しない難しいケースが増えてきました。

 例えば、教師に反抗的な態度を示し、他の子とトラブルになったとき暴力を振るう、教室を抜けだして遊ぶ、やる気がなく授業に参加しない。家庭でも生活に必要な基本的な習慣が身に付かない、兄弟ゲンカが耐えないなど。

 これらは典型的な発達障害の症状に見えます。しかしこうした症例はいくつかの要素が複雑に絡み合っているケースが多いと司馬さんはいいます。特に注目したいのは、家庭での養育の仕方です。

 実は、小さいときから親から「不適切」な対応をくり返し受けていると、発達障害に非常によく似た症状が起こることが多いのです。そのような子どもは、発達障害と同じに見えても、原因が違えば治療法や対処の仕方は違ってきます。

■「不適切な養育」と「親」の発達障害

 発達障害に似た問題行動を起こす、「不適切」な親の対応とはどのようなものでしょうか。専門的には、「マルトリートメント(不適切な養育)」と呼びます。具体的には、身体的・心理的・性的虐待、またネグレクトなどです。

 体罰や人格否定までする激しい叱責は、言うまでもなく虐待です。しかし親にとってはこれが自分の常識だと疑わない人もいます。そして残念なことに発達障害のある「親」が、マルトリートメントをしやすいという構造を司馬さんは見いだしました。

 発達障害といえば、子どものうちだけで、大人になれば適応すると以前は考えられていました。しかし大人になっても生活がしづらいと感じている人が多くいます。そして、発達障害の子を持つ親にも治療が必要なケースも多いのです。

■子ども時代の傷が育児で痛む

 発達障害のある親たちは、子ども時代に両親との関係で傷つき、今でもその悩みを抱えています。それが子育てに大きな影をおとしていることがよくあるそうです。

 子どものときに自分がマルトリートメントを受けてきた親は、これまでは何とか社会に順応してきました。けれども子育てをするようになって大変さが増えます。

 自分が親にかまってもらえなかった、愛されていなかった人は、どのように子どもに愛情を与えればいいのかわからないのです。また育児を通じて自分が幼い頃、親からされてきたことなどがよみがえって苦痛を感じることもあります。

 どう子育てすればいいのかわからず、途方に暮れた結果、不適切な接し方をしてしまうそうです。このような親の話を聞いていると、かわいがり方やしつけ方、どのように子育てすればいいのか、たくさんの疑問に答える必要があると司馬さんはいいます。

■あなたは「いい親」ですか?

 子育てに疲れた結果、不眠・食欲低下・鬱状態など子育てのパワーが足りない親もいます。このような人は今すぐ、精神科などの受診が必要です。薬物療法だけではなく、カウンセリングやトラウマの治療をしましょう。

 ただ自分がケアを必要とするか、自覚がない人もいます。そこで下のチェック表に答えてみてください。

 もしも下のチェック表に当てはまることがあれば、あなたの親としての関わり方に問題があります。育児のサポート機関に相談してみたり、カウンセリングなどを受けてみる目安となります。

◆マルトリートメントを防ぐための「いい親検定」
1.子どもに同じことを何度も注意し、叱責する
2.子どもは叱られているとき、話を聞いていない、ボーッとしている
3.子どもは痛い思い(体罰)をしないと覚えられないと思う
4.自分も親に厳しくしつけられ、それを感謝している(もしくは恨んでいる)
5.妻(夫)の子育て方法に反対している
6.子どもが自分にあまりなついていない
7.自分がいないとき、子どもは言うことを聞かないようだ
8.ときどき子どもなんていなければいいと思う
9.子どもを持ったことを後悔することがある
10.子どもを家において外出することが、よくある
11.自分は親としてダメだと思う
12.自分は絶対に間違っていない
13.風呂上がりに裸同然で過ごす
14.夫婦関係のイライラを子どもにぶつけている
15.職場や他のイライラを子どもにぶつけている
16.配偶者や祖父母、担任にあなたの態度に問題ありと指摘を受けた
 (司馬氏の書籍より一部抜粋)

 上記質問に複数あてはまるようであれば、要注意。あなたの親としての関わり方には問題あり。今すぐ親子に問題がなくとも、子どもの思春期以降に目に見える形でトラブルが発生する可能性が高いでしょう。

 親は完璧ではなくてもいいのです。もしあなたが自身の問題を自覚できたなら、今すぐ誰かの助けを求めましょう。それがあなたを救うだけではなく、子どものためにもなるのです。

■ネットやゲームを無制限はバツ

 またこの20年の変化のなかに、インターネットの台頭をはじめ、さまざまな便利なメディアが登場しました。ネットやゲームは子どもにはとても刺激の強いものです。小さいときから過剰な刺激にさらされることは、害になることも覚えておきたいです。

 まずネットやゲームの刺激は、視覚と聴覚に偏っています。実生活では、触覚や嗅覚、味覚など他の刺激もあります。鮮やかすぎる色、めまぐるしく映像が変化することが、どのように視覚に影響を与えるかは、注意が必要です。

 司馬さんは、視神経や網膜に対して、想像を超えるような影響が出る可能性も否定できないと述べています。

 そして何より深刻なのは、ネットやゲームのため、親子の時間が減って人間関係が希薄になることです。

■「すべてダメ」ではなく使い分けを

 ただしゲームやネットがすべてダメとは限りません。子どもにとっては友達とのコミュニケーションツールでもあります。ルールを設けて、上手に使いましょう。

 例えばADHDで忘れ物が多い、宿題をしないという子どもには、ごほうびに「ゲーム券」を用意しましょう。連絡帳をきちんと記入できた、丁寧に宿題の文字を書いた…など、良い行いをしたときに10分間ゲームができる「ゲーム券」を与えるのです。

 口でガミガミ言うだけよりも、よほど良い効果が生まれます。また親もスマホに関してはルールを守るべきです。食卓には持ち込まない、子どもの前では見ないなど。親の振る舞いを子どもはしっかり見ています。

 一方、絶対にしてはいけないことは、スマホやゲーム機をいきなり没収する、壊すなどです。子どもは激しい怒りを覚え、悲しみに打ちひしがれ、親との信頼関係が壊れます。

 没収、破壊することに教育効果はなく、親への絶望、復讐心が生まれることもよくあります。

■発達障害の子を救うために親のすべきこと

 子育ての常識は時代とともに変化します。もしかしたら、あなたの子どもへの接し方は、科学的に見て正しくないかもしれません。また自覚していないだけで、「どう子育てしたらいいかわからない」と思っているかもしれません。そんな人こそ本書をぜひ手に取ってください。

 どう接すればいいかわからず「育てにくい」と感じていた子も変化を見せてくるでしょう。さらに子どもが未知の社会で生き抜き、自立して生活を営む力を育むヒントが大いに詰まっています。

 少しの声掛け、また小さな行動の変化。それだけで、子どもは変わります。あなたの育児にちょっとした「モヤモヤ」があるなら、ぜひ一読をおすすめします。

文=武藤徉子