セクハラ相談、バイトテロ、不払い残業代に介護時短拒否……「働くこと」にまつわる問題に、社労士はどう対処する!?

文芸・カルチャー

2019/10/25

『きみの正義は 社労士のヒナコ』(水生大海/文藝春秋)

 2018年に国会で可決された働き方改革関連法が、順次施行となった2019年。なかでも、有給休暇5日以上取得の義務化──年間10日以上の有給休暇が付与された従業員に対し、従業員から有給休暇取得の申し出がなければ、会社から時季を指定して取得させることが会社の法的義務となる──などについては、「有給休暇が取りやすくなるかも!?」と期待した人、実際に恩恵を受けた人も多いのでは?

 ところが、働く人々に有益な法律が整備されたとしても、それをかいくぐろうとする人はいる。労働者を雇う経営者だ。企業と、そこに身を置き働く人々、そのあいだに生じる問題について解決をはかろうとするのが、社会保険労務士、いわゆる社労士である。『きみの正義は 社労士のヒナコ』(水生大海/文藝春秋)の主人公、朝倉雛子の職業だ。

 2018年、春。元派遣社員の雛子は、社労士事務所に就職して2年目の春を迎えた。雛子が勤める「やまだ社労士事務所」は、所長とその妻、ベテランパート女性、そして雛子の4人から成る小さな事務所。今年28歳になる雛子は、人生の先輩にあたるほかのメンバーに見守られつつ、日々仕事に邁進している。

 さて4月のある日、やまだ社労士事務所の電話が鳴った。2018年4月から、改正労働契約法により、有期雇用で5年を超えて契約を更新する者が希望すれば無期雇用に転換されることになったのだが、さっそくその件についての相談だという。

 電話をかけてきたクライアントは、介護付き有料老人ホームの経営者。彼が雛子に訴えたのは、通算契約期間が5年を超えた有期契約者が無期転換への申し込みをしてきたのだが、なんとか無期雇用にせず辞めさせられないかということだった。辞めさせたいのは、当該施設の調理職員。乱暴な言葉で、女性介護職員を泣かせてしまったこともあるという男性だ。貴重な介護職員には残ってほしい、でも他の職種の人は、辞めさせたいときに辞めさせたい──クライアントの意図が見え隠れする要望に、雛子はどんな答えを出すのか?

 ほかにも、虚偽の履歴書を提出して働いていた未成年の従業員が就業中に怪我をしてしまったという工務店の社長、上司からのセクハラを訴える男性社員&食い違う証言をする女性上司に困惑する総務部長などなど、雛子が仕事でかかわるのは、「働くこと」について一筋縄ではいかない問題を抱えた人ばかり。巻き起こるトラブルの渦潮に毎度飛び込んでしまう雛子は、社労士としてまだまだひよっこなのか、それとも成長の途上にいるのか?

 働き方改革関連法はもちろんのこと、そもそも法律とは、誰かを罰するためのものではなく、「みんなでより快適に暮らす」ためのものだ。雛子の奮闘を追ううちに、きれいごとを言ってはいられないという現実と、正義を貫きたいと願う心、その天秤の調整役が、社労士なのかもしれないと思えてくる。

『ひよっこ社労士のヒナコ』(水生大海/文春文庫)に続く、ミステリ風味の新米社労士お仕事小説。今すぐには難しくても、ちょっとずつでもよくなっていきたい──そんな願いを持つ人ならば、誰もが共感できる物語だ。

文=三田ゆき