「人間好き」を公言するゲイを囲むとんでもなく強烈な個性の人々。ド天然パートナーや濃い友人との交わりを描くコミックエッセイ

マンガ

公開日:2019/10/27

『ゲイです、ほぼ夫婦です』(歌川たいじ/扶桑社)

 歌川たいじさんといえば、2018年に実写映画化されたコミックエッセイ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』の著者として話題を集めた人物。母親からの虐待や学校でのいじめで自分の存在意義を見失い他人のことを貶めるようになっていた歌川さんが、個性豊かなゲイ仲間や、飾らず絶え間なく愛情を注いでくれる同性パートナー・ツレちゃんとの出会いによって母親と正面から向き合えるようになった凄絶な過去と再生が描かれていた。

 そんな彼は、会社員として勤務していた頃から周囲にゲイであることを公表し、LGBTへの理解を積極的に求め続けてきた。2009年に開設されたアメブロ「ゲイです、ほぼ夫婦です」は、1日に15万PVを超えるほどの大人気に。ブログには、ツレちゃんや個性的な友人たちとの笑いあふれる日常が描かれている。

 この度発売された『ゲイです、ほぼ夫婦です』(扶桑社)は、その人気ブログをベースに書籍化されたもの。ツレちゃんやゲイ仲間への温かい想い、漫画を描き始めてから味わった苦悩や喜びなどをギュっと凝縮。書籍化にあたって絵はすべて描き直され、描き下ろし作品も収録された。

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■ド天然パートナーや愛猫と過ごすユーモラスな日常を覗いてみると

 安定した上場企業で働いていた歌川さんがブロガーとなったきっかけは、2008年のリーマンショック。会社が倒産しリストラされたため、円高不況の中、42歳で転職活動を行ったがアルバイトさえも受からなかった。

 有名企業でばかりキャリアを積んできた自身の経歴が“ダメ出しバリバリ猛烈シゴト人間”であるかのような偏見を生んでいると感じた歌川さんは、会社に勤めず、自分で何かを売ることはできないだろうかと画策。そこで絞り出したアイデアが、ド天然なツレちゃんとの日常を漫画化し、ブログで配信すること。これまでに絵を描いた経験はなかったが、自分が持っている“すべらないネタ”をブログで発信し、さらに出版を目指そうと考えた。

 同性愛やLGBTといった課題はときに深刻な議論になりやすいテーマだが、歌川さんが描くツレちゃんとの日々はユーモラスで温かく、多くの人が気楽に入り込んでいける。

 作中では、ド天然なツレちゃんによる小ボケが数々炸裂。

 あまりにも飾らない日常に、マンガを読むこちらも家に上がり込んで覗いているような気持ちで笑いがこみ上げてきてしまう。

 また、同性カップルであるがゆえのやり取りもコミカル。

 ノンケ(ストレート)のカップルにはなさそうな会話を目にすると、2人はいつもどんなことを話しているのだろう? と気になって仕方がない。

 なお、本作には、ツレちゃんとのかすがいになってくれている3匹の愛猫とのドタバタ劇も収録されている。

 天国へ旅立った飼い猫・茶助との別れも必見だ。

 歌川さんが長きにわたり連れ添ってきたツレちゃんはもはや、永遠の伴侶といっても過言ではない存在。2人の暮らしを眺めていると、自分も心許せるパートナーとこんなコミカルな日々を過ごしてみたいと思わせられるのだ。

■オンリーワンの個性を放つ“濃い仲間”が続々と登場!

 どこの世界にもクセの強い人は必ず存在しているものだが、歌川さんの周囲にはオンリーワンの個性を放つ“濃いキャラ”がたくさん! 例えば、会社でゲイを公表しているトンちゃんはトトロのようなほんわかした風貌をしているが毒を吐き、上司からのマウンティングを下ネタであしらうような強者。

 そして、ゲイ友のベジ子も強烈な個性の持ち主。伊豆の下田で年に一度行われる「黒船祭」では、ゲイ友の突っ込みに対して絶妙な返しを披露していたという。

 そんな人々に囲まれている歌川さん自身も、やはりユニーク。ゲイを公言していた会社員時代には切り返しを考案し続け、名言を誕生させた。

 きっと、歌川さんが「人間が好きだ」と自負しているからこそ、愛情あふれる人たちが周囲に集まり、その人々のおもしろさに気づくことができ、さらに作品として発信していけるのだろう。こんな人たちがもし私の身近にいてくれたら…そう思わせてくれる本作は、笑いながら知られざるゲイの世界に触れられる大切な1冊だ。

文=古川諭香