BL要素あり! クセの強すぎる探偵ふたりがあらゆる謎を解いていく『彼に依頼してはいけません』

マンガ

更新日:2019/10/27

『彼に依頼してはいけません』(雪広うたこ/一迅社)

 多くのミステリー作品などの影響からか、「探偵」と聞くと、どうしても殺人事件や窃盗事件など複雑に入り組んだ事件の真相を究明していくようなイメージがあるが、実際に探偵を事業として営む国内の企業は、そんな大事件は基本的に取り扱わない。

 昔は誰でも探偵を名乗れたが、2007年に施行された「探偵業の業務の適正化に関する法律」により、公安委員会に認可された人しか探偵業務を行えなくなった。それによって、前科者や自己破産者は探偵にはなりにくくなり、結果として探偵が引き受けられる案件の範囲も狭まった、という。そのため現在は、不倫の証拠をつかむための素行調査など、情報屋のイメージの方が近いかもしれない。

 しかしそうなると、通常の探偵事務所では引き受けないような案件を担当する「モグリ」の探偵も存在するのだろうか。雪広うたこ著『彼に依頼してはいけません』(一迅社)は、そんな正規のルートを辿らない、なんとも怪しげな探偵・鏡キズナと相棒の御堂眞矢が主人公の物語だ。

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 彼らの拠点「鏡探偵事務所」は、日暮里駅から徒歩15分。下町情緒あふれる商店街「ねんねこ銀座」のはずれに佇む2階建ての隠れ事務所だ。1階は仕事場で、2階は鏡と御堂の居住スペースとなっている。依頼主は、「喫茶でんか」でラッキーアイテムを注文、出てきたおみくじにある“合言葉”を店員に伝える。そうすると鏡と御堂が登場する、というかなり怪しげなシステムである。

 鏡には特殊な能力があり、それが謎解きに活かされる。彼は他人の感情を自分のことのように感じ取れる力「エンパス」の持ち主なのだ。これは共感(エンパシー)の能力が高い人のことを呼ぶ言葉で、さほど珍しい性質ではない。しかし鏡の場合は、相手の才能さえも統べる「憑依」レベルの能力の持ち主なのだ。

 果たしてその能力がどのように探偵業とリンクするのか最初は未知数であったが、あるときは依頼者の心に寄り添い、あるときはターゲットの嘘を感じ取り、あるときは御堂の力とリンクして敵を倒すなど、とにかく余すことなく使っているからおもしろい。

 共感能力が鍵になるからか、携わる事件の登場人物の心情も丁寧に描かれる。ただ問題を解決するだけではなく、依頼主たちのわだかまりやモヤモヤも解きほぐしていくので読後感もいい。

 加えて、この鏡と御堂のタッグの息もぴったりで、ふたりの絡みを見ているだけでニヤニヤしてしまう。のんびりとして猫のような気まぐれさのある鏡と、気性が荒く言葉づかいも悪いがとにかく鏡のことを大切にしている御堂。ふたりが一緒に暮らしているシーンの描写などが入るたびに和んでしまう。恋愛的な絡みはないが、むしろそれ以上の絆がすでにできあがっているような雰囲気も時折感じさせる(とにかくふたりの距離が近いのだ)。

 BL要素あり、謎解きあり、第1巻から登場人物も多数出てくる、というかなり情報量の多い作品だが、それを高い画力でしっかり見せてくる作者の腕もすごい。

文=園田菜々