「今月のプラチナ本」は、月村了衛『欺す衆生』

今月のプラチナ本

2019/11/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『欺す衆生』

●あらすじ●

現代の詐欺のルーツともいわれる、戦後最大の詐欺事件・横田商事事件。その元営業マンであった隠岐は、かつての同僚・因幡と再会する。「取り返そうよ、ここらで、僕達の人生をさ」。家族のためにと〈ビジネス〉の世界へ身を投じる隠岐であったが、次第に人を欺すことの快感に取り憑かれていき……。欺す者と欺される者、欲望の深淵に生きる彼らを待ち受ける運命とは――。

つきむら・りょうえ●1963年、大阪府生まれ。2010年、『機龍警察』で小説家デビュー。12年に『機龍警察 自爆条項』で第33回日本SF大賞を、13年には『機龍警察 暗黒市場』で第34回吉川英治文学新人賞を受賞。15年には『コルトM1851残月』で第17回大藪春彦賞を、同年『土漠の花』で第68回日本推理作家協会賞を受賞している。その他の著書には『神子上典膳』『機龍警察 狼眼殺手』など多数。

『欺す衆生』書影

月村了衛
新潮社 1900円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

ハッピー/バッドを超越したラストに震撼

人は〝自分の意志〟で生きているのだろうか。隠岐は因幡に脅されて、詐欺に協力し始める。「気乗りはしなかったが、こうなってはもう他に道はない」。でも始めてしまえば「自分でも驚くほどの快感だった」。やろうという意志のないまま欺し続け、やがて隠岐の〈ビジネス〉はヤクザの一大資金源となる。もはや自分の意志でやめることはできない。主人公の意志通りにことが運ぶのがハッピーエンドだとすれば、ハッピーでもバッドでもない真っ白なエンディングを用意した著者に感服。

関口靖彦 本誌編集長。隠岐の欺しの能力が、継ごうという意志もないのに引き継がれてしまったことがわかるシーンが、強く胸に残っています。果てしない。

 

読む手を止められない背徳の味

約500ページにもなる長編だったが、一気読みだった。主人公の隠岐が、詐欺の快楽に飲み込まれていくさまに、そしてどんどんスケールの大きくなっていく詐欺ビジネスに身震いしながら読んだ。最初の出発点であった、家族との生活を守るという隠岐の気持ち。物語の最後、やはり隠岐は家族のためにと、新たに巨大な詐欺ビジネスに向かっていく。言葉にすると同じだが、隠岐の気持ちはどう変わっていったのか……。そんな隠岐の心情を、背徳感を持ちながらも追いかけてしまった。

鎌野静華 遅めの夏休みをもらい3日間ホテルのプールでまったり。プールサイドでハニーエードとピザ。天国! ただ久しぶりに日に焼けてヒリヒリ……。

 

死なない程度に生きる、が難しい

イッキ読み。主人公の隠岐は〈詐欺師〉を見下しているが、横田商事で揉まれ詐欺の才能を開花させる。そんな彼が新しい〈ビジネス〉に目覚めるたび、スリリングな展開が続出。作中に登場する個性派揃いの〈詐欺師〉たちは、己の欲に欺かれ自らを正当化し続ける。が、それは序の口。やがて彼らは自らの命を危機にさらし、どうしようもなく脳が活性化する瞬間に立ち会う。まさに「欲望の深淵」(帯文)だ。それを「器が広がる」と評する隠岐は、果たして「詐欺納め」できるのか。

川戸崇央 『小説 空挺ドラゴンズ』が11月7日発売&『水曜どうでしょう』特集を担当。札幌出張にはなんとトロイカ班も合流し、北の大地を文字通り一周!

 

始めてしまったら終われない

あっという間に読んでしまった。戦後最大級の詐欺集団「横田商事」の元社員たちが亡霊のように集まり、再び詐欺〈ビジネス〉を復興させる。欺き欺かれ、降りかかる試練の数々、息をのむような反社会的勢力組織との交渉術など、主人公の隠岐がピンチを乗り越える度に、読み手としては爽快感があるが、どこか「闇」に染まる心地悪さも覚える。終始、主人公の罪悪感の言い訳は「家族のため」で、詐欺を「ビジネス」と言い聞かせているが、「一度始めたら終われない」恐ろしさに身震いした。

村井有紀子 『水曜どうでしょう』特集担当。会場にて表紙撮影を盛り上げてくださった皆様、ありがとうございました!『騙し絵の牙』も映画クランクイン!

 

「巨悪」はかくして生まれるか

何がいちばん恐いって、主人公の隠岐である。彼は基本的には、善良なサラリーマンなのだ。家族の幸せや、今よりちょっといい暮らしのために働いて、仕事上うしろ暗いことをするけれど、人としては堕ちていないと信じている。そんな彼が、さまざまな悪意にからめとられていくうちに、国家をゆるがす詐欺事業を動かすようになる過程が実にこわい。自ら育てた悪の只中で生き抜こうともがく一人の衆生。人を、そして自分を欺き続けた「平凡な」男が辿りつく、善悪を超えた景色に震える!!

西條弓子 腸活にハマって2カ月。体調も肌も調子がよくなり背まで伸びた(?)。腸すごい。「腸と本」特集をやりたいくらいです(やりません)。

 

越えてはならない一線はどこだったのか

「人を欺すためなら、自分を欺すことなんて簡単にできる」。当初あったはずの罪悪感は欺す快感の前に薄れ、追いつめられた冴えないサラリーマンは、自分への言い訳を重ねながら詐欺師としてどんどんのし上がっていく。そのスピード感と裏社会の人間たちのアクの強さといったら! 決して応援したくなるような人物ではないのに、彼の〈ビジネス〉の成功を求めてページをめくる手が止まらなかった。フィクションならではのダークなエンターテインメントを存分に楽しんでほしい。

三村遼子 「人狼」ブームのときに何度かプレイしたのですが、うまく立ち回れたためしがありません……。根本的に駆け引きというものに向いていない気がする。

 

家族のためって恐ろしい

人生で一番大切なものは家族です、と思う人は少なくない。主人公・隠岐もまさにそんな男だったのだが、彼のこのポリシーが大義名分となり、闇の住人へと堕ちていくその勢いを面白く感じる半面、家族のためという言葉が持つ不健康な正義が浮かび上がってきて、思わず慄いた。もちろん隠岐自身の欲望や弱さのために罪を重ねていくことには間違いないのだが、そこに何か1つでも正義と思える要素が加われば、人間はこうも簡単に悪になれるのだ。清々しいまでの人間のずるさに感嘆。

有田奈央 最近南インド料理の定食、ミールスにハマっています。スパイスの奥深さとうまさにやみつき。いつか現地に行って食べたいなあ。

 

自分をも欺し続ける、強さと弱さ

〈ビジネス〉の世界から逃れたいと思いながらも、人を欺す快感に堕ちていく隠岐の生き様は、決して解けることのない雁字搦めの糸のようだった。彼が持ち続けた〝家族のため〟という想いこそ、彼を詐欺の世界へと繋ぎ止める楔であり、その世界で生きるための免罪符であったとも思う。何かに縋らずにはいられないのに、縋ったものに縛られる、そんな彼の姿からは人間の本質的な強さと弱さが伝わってくる。欺し欺される者たちの、その行く末を追わずにはいられない一冊だった。

前田 萌 近所のペットショップに通っては、可愛らしい動物たちを見て癒されています。良い家族が見つかるといいなぁ。実は勝手に名前もつけていたり……。

 

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