40代課長、電車内で性器露出して「俺、生きてる」と実感。真面目なビジネスマンが見せた裏の顔

社会

2019/11/4

『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか ビジネスマン裁判傍聴記』(北尾トロ/プレジデント社)

 これほどまでタイトルを二度見し、それでも内容がうまく想像できずに気になった書籍があっただろうか。『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか ビジネスマン裁判傍聴記』(北尾トロ/プレジデント社)は、そう考えながら自然と手が本に伸びてしまうような1冊だ。

 本書は総合情報サイト「プレジデントオンライン」に連載された「北尾トロのビジネスマン裁判傍聴記」を加筆修正し、書籍化したもの。罪を犯してしまったビジネスマンについて、「お金」「女・酒・クスリ」「小事件」「情欲」「被告人を助ける人々」の5ジャンルに分け、その顛末を紹介する。全19本の裁判傍聴記には、どこにでもいそうなビジネスマンが犯罪者になってしまった転落の理由や被告人の人生が綴られている。

■生きている実感が欲しくて。電車内で性器を露出した40代ビジネスマン

 法廷で被告人が見せる態度はさまざまだ。開き直りながら堂々としている人もいれば、やむにやまれぬ事情を涙ながらに切々と語る人もいるという。今から10年以上前、北尾さんが裁判を傍聴した、ある40代男性は後者だった。中堅企業の課長職に就いていたという真面目な男性は、日常生活に疲れ切り、自分の「別の顔」をさらけ出す――。

 帰宅はいつも終電近く、きついノルマや仕事上の面倒な人間関係について悩む日々だった。酒も飲まず、無趣味だった被告人は人生で一度も風俗店へ行ったこともなく、妻以外の女性との交際経験もない。だが、妻からは冷たく扱われ、家には居場所がないと感じていた。

 そうしたフラストレーションが積み重なった結果、彼が思いついたのは電車内で女子高生相手に性器を露出して見せつけるという“ストレス解消法”。痴漢することも頭をよぎったというが、行動に移す度胸がなく、相手に直接触れない性器露出で手を打つことにしたのだ。

 得られるのはほんの一瞬の快楽と大きなリスク。これまで積み上げてきた地位や収入、信用が水の泡になってしまうにもかかわらず、被告人がリスキーな行動をとったのは「公然わいせつ」という犯罪行為を通して、自分の価値を見いだしてしまったから。性器を見せつけ、女子高生にキャーッと騒がれると、「俺、生きてる」という実感を得られたという。

 被害者の恐怖を想像すると犯した罪は同じ女性として許せないが、犯罪に至った切ない動機を知ると、心が限界を迎えてしまう前に何とかならなかったのだろうか…とやりきれない気持ちになってしまう。

 本書に登場する被告人たちが犯罪に至った事情は、第三者からみると納得できないものも多いだろう。だがそれは言い換えてみれば、普通の感覚では想像できないほど、極限まで心が追い詰められていた証でもある。どんな理由であれ犯罪に手を染めることは許されないが、「もし自分がこんな状況に置かれたら…」と考えさせられてしまう。

 外からはどんなに完璧に見える人も、多かれ少なかれ問題や悩みを抱えているものだ。幸せな日々をのほほんと過ごし続けている人は、きっといない。だが、心は悲鳴を上げそうなほどストレスを抱えているのに、そんな自分に気づかぬフリをしていると、自分でも知らない「別の顔」が現れてしまうのではないだろうか? その「別の顔」は、これまで真面目に生きてきたあなたの「表の顔」をも奪ってしまいかねない。

 この被告男性の妻は、情状証人として出廷した際にこう語っている。

「警察の方から連絡があり、信じられない思いで事件のことを聞きました。夫が大きなストレスを抱えていることは、まったく知りませんでした。私がもっと早く気づいていれば、今回のようなことは起きなかったかもしれません」

 こんな“落とし穴”にハマらないためにも、現代のビジネスマンはセルフコントロール力を身につける必要があるのだろう。本書にはさまざまな被告人とその裁判の顛末、さらに再犯防止を願う弁護人や裁判長、検察らの姿がつぶさに描かれている。これは他人事ではない、自分のビジネスライフは本当に大丈夫だろうか? とあなたもきっと考えたくなるはずだ。

文=古川諭香