文房具店でつい試し書き…には理由があった! 人の心を動かす「カラクリ」

ビジネス

2019/11/6

『「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』(玉樹真一郎/ダイヤモンド社)

 特別な興味があったわけではないのに、博物館の「ガイドボタン」を押してみたことはないだろうか? もしくは文房具屋で、買う気もないのにボールペンの試し書きをしたことはないだろうか?

 無意識に“つい”やってしまう行動。そうした行動には「ルール」があるという。そのルールを研究し、人を夢中にさせることを考え抜いたものがある。それが、ゲームだ。

 とあるゲームの開発者は思った。開発で培った発想やノウハウを商品やサービスなどに応用すれば、人の心をつかみ、ビジネスを成功させられるのではないかと。

 ゲーム制作会社の手掛けてきた売れるゲームの秘訣に迫り、人を動かす仕組みを解説するのが『「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』(玉樹真一郎/ダイヤモンド社)だ。

 任天堂の元企画開発者である著者の玉樹氏は、冒頭で次のように語る。

“世の中、高機能・高性能の商品はもはや売れなくなってきています。ついその商品やサービスを触ってしまうもの、誰にでも使えてしまうもの、所有していると気分がいいもの……心を動かす体験をもたらす商品やサービスこそが求められています”

 では、実際に心を動かす体験をどのように作ればいいのか。著者曰く、「直感」、「驚き」、「物語」の3つがポイントになるという。

 まず、直感について考えよう。冒頭のボタンや試し書きのケースを思い出してほしい。どちらもあまり考えず、直感的にできる行動だ。なぜ、我々はボタンを押したり、ペンを走らせたりしてしまうのか。こちらを見てほしい。

(A)ボタンがある(押したら何かが起こると考える)
(B)気になって押してみる
(C)音(音声ガイド)が鳴った!

 ボールペンの試し書きはどうだろう。

(A)ボールペンと紙がある(どんな書き味がするのかと考える)
(B)気になって書いてみる
(C)インクが出た!

 どちらの行動も【A→B→C】の流れは共通しており、この流れを著者は【仮説→試行→歓喜】と呼ぶ。「ついやってしまう」という行動は、これが基本になっているのだとか。

 視聴回数が多い動画や記事によくみられるのが、「○○やってみた」というもの。これこそまさに【仮説→試行→歓喜】の流れそのものなのだ! 「つい見てしまう」人が多いのも納得である。

 一方、この直感体験は、連続すると疲れや飽きが生じ、マンネリ化してしまう。そこで次のカギとなるのが「驚き」である。

 例えば、不愛想な店長だけどおいしいラーメン屋があるとする。ある日、店を出ようとすると帰り際に店長が厨房から出てきて、深々とお辞儀をして言った。「今日はあなたの10回目の来店記念です。お代はいりません。いつもありがとうございます」と。

 いつもは愛想のない店長が、感謝を述べるだけでなく、客の顔と来店回数を覚えていたのである。この予想外の展開は人を驚かせ、相手を気分良くさせるはずだ。相手の予想を裏切り、驚きを与える。そうすることで、マンネリ化の危機を回避することができる。単純作業が苦痛であれば、この驚きの要素を組み込むと飽きずに続けられるだろう。

 直感をベースに、ついやってしまう体験を連続させ、飽きてしまうタイミングで新しい驚きを加える――なるほど、ついやってしまい、飽きずに続けてしまうカラクリは少し分かった。しかし、ゲームはなぜ今日まで残り続け、人を魅了してきたのか。その理由を説明するまでにはまだ物足りない。

 それを満足させる答えが、3つ目の要素「物語」だ。著者によると、物語の使命は「受け手を成長させる」こと。成長を実感したとき、人はそれに価値を見出す。「やってよかった」「意味があった」そう感じてもらうことが大切なのだ。

 それでは、どのようにして成長を実感させるのだろうか。効果的な手法のひとつは、「スタート時点に戻る」ことだろう。例えば、どこか旅に出かけたとする。その道中でさまざまな経験をし、自分の家に戻る。そのとき、以前の自分と今の自分はちょっと違う、ほんの少し成長できたという気分になるのは、私だけではないだろう。

 人の心を動かす体験をつくる。その答えを求めた著者の想い、その結晶が本書だ。著者は最後にこんな言葉で締めくくる。「たいせつなのは、あなた自身の体験です」と。

「誰かの心を動かしたい」
「分かってほしい」
「行動してほしい」

 その願いを叶えるための力強いサポーターに、本書はなってくれるはずだ。

文=冴島友貴