ディズニー映画が東京大空襲のきっかけに?『最も危険なアメリカ映画』にみる米国の闇

エンタメ

2019/11/16

『最も危険なアメリカ映画』(町山智浩/集英社文庫)

 現在、「バットマン」シリーズのエキセントリックな悪役・ジョーカーの誕生秘話を描いた映画『JOKER』が世界中で大きな話題を呼んでいる。「不寛容な社会」が蔓延する現在、弱者を切り捨てた先に何が起こるのか…不穏な未来を暗示する衝撃作にアメリカ本国では、上映に際して私服警察官を配置するなど警戒態勢を強化したり、上映そのものを禁止した映画館もあるという。

 かように大きな影響力を持つ「映画」だが、実はハリウッド映画の中には偏った主張を堂々と描き、リアルに人々を先導したヤバい映画が数多くあるらしい。このほど文庫化されたアメリカ在住の映画評論家・町山智浩氏の『最も危険なアメリカ映画』(集英社文庫)には、我々日本人が知らない米国の闇が明かされている。

 たとえば南北戦争とその後の連邦再建時代の中で翻弄されるアメリカ人家族を描いた『国民の創生』(1915年)という映画は、南北戦争のスペクタクル溢れる描写など現代の娯楽映画の基本になる技術や文体を生み出し、さらには興行形態を発展させたことで、それまで「貧乏人向けの見世物」として蔑まれていた映画を文学や絵画、演劇と並ぶ芸術に押し上げたといわれているという。

 だが実は、この作品が今も多くのアメリカ人に記憶される理由はそうした原点的なことだけではない。当時国民的大ヒットとなった本作は、歴史を意図的に歪曲、捏造することで、黒人をリンチする白人至上主義の人種差別秘密結社・KKK(クー・クラックス・クラン)を「正義」として描き出し、なんと19世紀の終わりに消滅していたはずのKKKを復活させたというのだ。勢いづいたKKKは1920年ごろには600万人ものメンバーを擁し、秘密結社ではなく堂々と昼間から行進し、メディアを使って人種差別的アピールを繰り広げたという。「『国民の創生』がKKKを『正義のレジスタンス』として描かなかったら、これほどの人気になっただろうか?」と著者は問うが、早くも創成時から映画が大きな影響力を持っていたことを思い知らされる。

 あるいは多くの人から愛されるディズニー映画が、実は第二次世界大戦下の東京大空襲のきっかけになった可能性があるという黒歴史もある。1943年のディズニー・アニメ映画『空軍力による勝利』は、ドイツへの空爆を主張する同名原作に共感したウォルト・ディズニーが私費を投じて作ったプロパガンダ映画だ。近代戦においては空軍力が有効なこと、さらに最も効果的なのは敵の本土中心部を直接爆撃することと主張する本作のクライマックスは、アラスカの基地から離陸した長距離大型爆撃機による東京大空襲。ディズニーはこの映画をイギリスのチャーチル首相、そしてアメリカのルーズヴェルト大統領に送り届けたというが…。

 昔の作品も多く取り上げているため一般には馴染みのない映画も多いが、主題はそこに浮かび上がるアメリカの闇そのもの。単なる娯楽映画に、どれほど制作者が政治的意図を込めているのかを知って驚かされることだろう。中には日本でもヒットした『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ』などもあり、説明されなければ日本人にはわかりにくいアメリカ社会の深部を知ることができる。

 現在、YouTubeが高い人気を集めるように「映像」の力は圧倒的に強い。多くの人が関わり巨額の資金を投じて制作される映画であれば、より説得力が生まれ、たとえ事実の歪曲や虚偽があっても「真実」だと思ってしまう危険性がある。だがそれも一興。本書を読めば、その企みをも映画の魅力として愉しめるようになるだろう。

文=荒井理恵