ラブドールの製造工程がわかる恋愛小説? 映画化目前の『ロマンスドール』がおもしろい

文芸・カルチャー

2019/11/17

『ロマンスドール』(タナダユキ/KADOKAWA)

 2020年1月24日から全国ロードショーされる『ロマンスドール』。同作はある夫婦が過ごした日々を丁寧に描いたラブストーリーだ。映画では、ラブドール職人の北村哲雄を高橋一生、彼の妻、園子を蒼井優が演じる。原作は、映画監督のタナダユキ氏が執筆した同名小説だ。

 2008年時の『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)連載中は、時の流れとともにすれ違っていく夫婦の気持ちに共感を覚える読者も多かったが、同時に話題になったのが哲雄のラブドール職人という仕事の描写だ。

 哲雄は、美大で彫刻を学び大学院を卒業後、目的もなくフリーター生活をしていたところを大学時代の先輩・加藤に誘われて「久保田商会」という町工場で働くことになる。その工場で製造されていたのがダッチワイフ。いわゆる「ラブドール」だった。

 近年では、ラブドール愛好家がメディアで取り上げられたり、イラストレーターのみうらじゅんさんの愛するラブドールが雑誌に掲載されたりと、ドールの美しさや精巧な作りが話題になることもしばしば。しかし、この作品の舞台になっている1998年はラブドールの黎明期。今よりもニッチでマニアックな世界だったに違いない。

 とくに、ラブドールの製造工程まで知っている人は少ないはず。じつは、この『ロマンスドール』はラブドールの現場もしっかり描かれており、お仕事小説としても楽しめる作品になっている。

 物語の序盤、作業台に並ぶ塩化ビニール素材のラブドールを見た哲雄はこんなことを思う。

今目の前にある胴体たちが放つ、やわらかく美しい肌色……。これにきれいな顔がついて髪の毛がついて服を着てソファーの上にでも座っていたら、人間と間違えそうなリアルさがあった。

 その後、哲雄が造形師として久保田商会に入社したことを機に、より人間の肌の質感に近い“シリコン”を使った新たなドール製作に乗り出すことになる。

 大学で彫刻を学んでいた哲雄は、ダッチワイフこそ作った経験はないが「粘土で原型を作る」「骨格を作る」など、彫刻の製造過程との共通点を見出し、次第にラブドールづくりに夢中になっていく。しかし、試行錯誤の末に生み出された試作品を社長に見せると、辛らつなダメ出しを食らうことに。

「胸がリアルじゃないよ。まず形。形がダメ。お前、彫刻科出てんだろ? 成績悪かったのか? それにこの手触り。固過ぎんだろう。客が納得するわけがねえ」

 よりリアルなドールを作るため、彼らが考えたのはヌードデッサンなどでモデルを務める「美術モデル」に胸の型取りをさせてもらうという作戦。この「美術モデル」として現れたのが、後に哲雄と結婚する園子だった。いわば、ラブドールがつないだ縁といってもいい。

 恋愛小説として楽しむもよし、ラブドール職人の世界を垣間見るもよし。映画の公開前に原作をチェックしておくと、より深く作品世界に浸れるだろう。

文=とみたまゆり