唐突に容疑者が浮上する違和感…『ストロベリーナイト』著者が描く、前人未到、衝撃の警察小説

文芸・カルチャー

公開日:2019/11/20

『背中の蜘蛛』(誉田哲也/双葉社)

 科学技術の進歩により、かつて迷宮入りしていた事件が解決に導かれることは少なくない。では、情報社会の現代において、警察はどのような最新技術を用いて捜査を行っているのだろうか。その方法を知ることはできないが、私たちはあらゆる場所にあらゆる痕跡を残しながら暮らしているような気がする。街中に目を光らす監視カメラ。プライベートがぎっしり詰まった一人ひとりのスマートフォン。すべてが筒抜けと言われるインターネットの世界…。警察は、事件解決のためとはいえ、そのような情報をどのように扱っているのだろうか。情報社会は監視社会と同義か。そう考え始めると、やましいことがあろうとなかろうと、なんだか息苦しい。

 誉田哲也氏が描く最新作『背中の蜘蛛』(双葉社)の世界は、果たして本当にフィクションなのだろうか。誉田氏といえば、「ジウ」シリーズや「姫川玲子」シリーズなどの警察小説で知られ、どの作品もダークな世界観が魅力的だ。だが、もしかしたら、ここまで強い衝撃を受けた作品は初めてかもしれない。何が衝撃を与えるかといえば、それは、この物語と同じような警察の捜査が現実で起きていても少しもおかしくないからだ。フィクションだからと笑ってはいられない。読めば読むほど、戦慄せずにはいられない恐ろしい内容なのだ。

 事件は、東京・池袋で男の刺殺体が発見されたことに始まる。しかし、その事件は捜査をすすめるうちに「あること」により解決する。それから約半年後、今度は、東京・新木場で爆殺傷事件が発生する。だが、その事件も同じように「あること」によって容疑者が浮かび上がるのだ。事件が早期に解決するのは望ましいことだ。だが、警視庁組織犯罪対策部の植木は、唐突に容疑者が浮上してきたことに違和感を持ち始める。池袋の刺殺体の事件を解決した本宮もまた同じように事件に対して腑に落ちない感情を抱いていた。池袋と新木場。2つの事件につながりはあるのか。その真実が明らかになった時、恐ろしい現実が見えてくる。

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 警察捜査の裏側が濃密にじわりじわりと描かれていく。クライマックスにかけた展開には思わず背筋が凍るだろう。一体何を正義と呼べば良いのか。読めば読むほどわからなくなっていく。

 あなたには現代社会の現実を正面から受け止める勇気はあるか。現実にあってもおかしくないこの物語をどのように受け止めるだろうか。読む者を震え上がらせるこの衝撃の物語をあなたもぜひ体感してみてほしい。この本を読んだら、きっと、もうあなたは、これまでの日常に戻れない。

文=アサトーミナミ