「がん」はもはや8割が治る病気に!? 今知っておくべきがん治療の最前線

健康・美容

公開日:2019/11/22

『がん消滅』(中村祐輔/講談社)

 平均寿命が延びたこともあり、現在、がんは2人にひとりが生涯に一度以上かかる病気といわれている。ただ、いまやがんは昔のような「不治の病」というわけではないという。現在のがんの5年生存率は60%強となっており、半分以上の人にとって治癒が考えられる病気なのだ。

 その60%強の5年生存率が、この先10年以内には80%以上になる可能性が高いとされている。そんながん治療の最先端の現場をわかりやすく解説してくれるのが『がん消滅』(中村祐輔/講談社)だ。著者は長年、ゲノム研究を中心にがん治療に携わってきた医師であり、東京大学名誉教授、シカゴ大学名誉教授でもある。また2018年からは、がん研究会がんプレシジョン医療研究センターの所長も務めている。「プレシジョン医療」とは、ひとりひとりの患者にあわせた治療のことで、以前はオーダーメイド治療と呼ばれていたものだ。このオーダーメイド治療という言葉を、90年代にはじめて提唱した人こそ、本書の著者なのだ。

■がん治療のカギとなる最新技術の現状

 ところで、『がん消滅』というタイトルを見ると、なにかががんを一発で消してくれるような画期的な特効薬や治療法をイメージしてしまうかもしれない。またそれゆえに、胡散臭く感じてしまう人もいるだろう。しかし、著者は本書のなかで、「がんという病気が根絶できる」とも「100%治る」とも言ってはいない。ただ、ゲノム(全遺伝子)解析やリキッドバイオプシー、免疫療法、人工知能(AI)などの最新技術を組み合わせることで、5年生存率を確実に上げることができると解説する。

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 なかでもカギとなる技術は、ゲノム情報の解析である。これにかかる時間とコストは、この30年間で劇的に進歩している。ヒトひとりぶんのゲノム情報を解析するのに、1990年代には十数年・3000億円もかかっていたのが、2000年代初頭には3年・2億円となり、2010年代には2週間・40万円、そして現在では15分・3万円となっているのだ。このゲノム解析の進歩により、がんの治療の現場で実用化の目途が立ってきているのがリキッドバイオプシーや免疫療法である。

 リキッドバイオプシーは、採取した血液を遺伝子解析し、「特定の遺伝子変異を非常に高い感度で検出する」ことにより、がんを発見するという検査方法だ。この方法は、がんが疑われる臓器ごとに調べる必要がなく、1回採血するだけ。気軽に検査が受けられるとあって、がん治療においてもっとも大切とされる「早期発見」につながると期待されている。

 いっぽうの免疫療法は、患者自身の免疫力によってがんを治療するというものだ。これまでのがん治療では、手術、抗がん剤、放射線が3大治療法とされてきたが、近年は免疫療法が第4の治療法として注目を集めつつある。この免疫療法のなかでも、とくに「ネオアンチゲン療法」と呼ばれるものは、患者のがん細胞の遺伝情報に応じてオーダーメイドのワクチンを作るため、ゲノム解析は欠かせない。

 そして、AIはリキッドバイオプシーや免疫療法を支えているゲノム情報の解析を、より効率化・高速化するために必須のテクノロジーなのだ。さらに、多くの医者はひとりひとりの患者ともっと時間を取って向き合いたいと考えているが、電子カルテへの記入など、診察や治療とは直接関係ない業務で忙殺されているのが現状だという。AIには、そういった医師業務の補助も期待されている。

■あなた自身が最適な治療を受けるために――

 本書の内容には専門的な解説も多いため、「難しい話はいいから、とにかくがんが治ればいい」と感じる人もいるかもしれない。だが、医療技術やサービスが発展すればするほど、患者自身が選択しなければいけないことも増えてくる。いざというときに、どのような選択肢があり、自分にはどれがあっているのか? それぞれに期待できる効果とそのリスクは?…といった情報を知るために、本書は心強い支えとなるはずだ。

文=奈落一騎/バーネット