悪オジの色気にクラクラ…オノ・ナツメが新たに描くのは、前科者たちが始める「煙草屋」の物語

マンガ

公開日:2019/11/24

『BADON』(オノ・ナツメ/スクウェア・エニックス)

「ちょい悪オヤジ」というのは、もうすでに死語に近いのだろうか。過去に「枯れ専」という、おじさんばかり好きになる嗜好を指した言葉があったが、最近はすっかり使われなくなってしまった。しかし、歳を重ねた男性の醸し出す色気、それ自体は今も健在だろう(人によるかもしれないが…)。それが「悪い男」なら、なおさらである。

 2019年9月に発売されたオノ・ナツメ著『BADON』(スクウェア・エニックス)の第1巻は、そんな「悪い男」たちの色気を存分に堪能することができる作品だ。

 舞台は架空の街である、首都バードン。そこにとある前科者4人が集まった。

advertisement

 詐欺罪で9年服役出所6カ月のリコ・ダイス氏、恐喝罪で3年服役出所1年のチーロ・ハート氏、強盗罪で11年服役出所2カ月のアント・ラズ氏、過失運転致死罪で6年服役出所1カ月のエルモ・クラップス氏。彼らはヤッカラ北刑務所で知り合い、出所後はともに「第二の人生」を送ろうと約束をした。

 第二の人生とは、首都で高級煙草店を開くことだ。彼らは無事出所し、首都への入区審査も通過した。事情をわかっている不動産屋から紹介されたのは、中心から少し外れた場所にあるアパートの5階。生活水準の高い層に好まれる地区であり、煙草店が集中している中心地と違いライバル店もない。

 全てが順調にいっているように思えた。

 だが、前科者の彼らにとって、人生はそう容易いものではない。商売を始めようと思っても、なかなか融資の審査がおりないのだ。完璧な事業計画書を見せても、彼らの「素性」が邪魔をする。

 この作品で描かれる彼らの「第二の人生」とは、罪を償った男たちの平穏な日々ではなく、罪を償ってもまだ訪れる苦難に立ち向かう日々である。

 結局、資金はハートの「ツテ」でなんとか解決をすることができた。そのツテについては、ハートは詳しくは語らないし、誰も触れない。不安に顔を暗くするハートに、しかし彼らは優しい。「大丈夫だ お前のことは俺ら3人で守ってやる 心配するな」というリコの言葉に、ハートはつい涙をこぼすのだった。

 過去に犯した罪を償ったはずなのに、調べればわかる前科や、過去の経験が鋭くさせる前科者たちの眼光は、彼らを解放することはないことに胸が苦しくなる。

 しかし、彼らは決して過去の罪は誇らない。同じ過ちを犯そうとはしない。過ちを犯そうとしている人を見たら、放っておくこともしない。それは、一度人生をリセットして、新たにゲームを始めた彼らの矜持だ。

 ときに渋く、ときに幼く、ころころと表情を変える男たちの日々は眩しい。ロクでもない生き方をしてきたからこそわかる、高級煙草の味。それを武器に挑む商売、待ち受ける数奇な運命。危ない男たちの、危なっかしい挑戦から目が離せない。

文=園田菜々