タランチュラやタコから「人間らしさ」を学ぶ! 動物たちが人に教えてくれる「生き方」とは?

スポーツ・科学

公開日:2019/11/24

『動物たちが教えてくれた「良い生き物」になる方法』(サイ・モンゴメリー:著、古草秀子:訳/河出書房新社)

 池袋・サンシャイン水族館がしかける「へんないきもの展」「ざんねんないきもの展」が毎回動員数10万人前後を記録する大ヒットとなっている。こうした展示や、動物に関する教養本に関心のある方にぜひおすすめしたいのが『動物たちが教えてくれた「良い生き物」になる方法』(サイ・モンゴメリー:著、古草秀子:訳/河出書房新社)だ。

 世界中を調査のために旅行し、ネイチャー系のノンフィクションを数多く執筆してきたアメリカ人の著者は、人生で大事なことのほとんどは動物から学んだと本書の冒頭で語る。何を学んだ(そして今も学び続けている)のかといえば、題名にある通り「良い生き物になる」秘訣だ。

 本書は10章から構成されていて、エミュー、タランチュラ、オコジョ(イタチ科)、キノボリカンガルー、ミズダコ、犬、豚などから得た“学び”がいきいきと綴られている。

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 たとえば豚についてのイメージは、映画「ベイブ」シリーズによって、それまでの汚い・臭いからイメージが一新されたという人も多いはずだ。また、少年とシャチの交友を描いた映画「フリー・ウィリー」シリーズは、攻撃的と思われていたシャチの慈悲深い一面を世の中に知らしめた。本書の描写の軸になっているのは、既存のイメージにとらわれない、著者の並々ならぬ“動物への愛情”だ。

■タランチュラのかわいらしい一面にふれてみると

 タランチュラの章を例にとってみよう。タランチュラという言葉の響きは多くの読者にとって危険なニュアンスを含んでいるように聞こえるはず。しかし、動物に寄り添って生きる著者は、タランチュラに「クララベル」というかわいらしい名前を付けてふれあう。タランチュラを20年研究してきた生物学者が著者の手のひらにタランチュラを乗せる、いわば出会いの場面はこのように描かれている。

“彼女は個性的な存在で、わたしの手の中にいる姿はじつにかわいらしかった。彼女が手のひらをそっと、ゆっくり、おずおずと歩いているのを見ているうちに、わたしはなんともいえないやさしい気持ちになった。”

 ここだけ抜粋すると「タランチュラ×かわいい」という驚愕のコラボレーションを楽しむゲテモノ紀行のような本だと思われる方もいるかもしれないが、本書はそういった類の本ではない。生き物とほんの一瞬出会っただけで人生を大きく変化させるような感動がリアルに綴られている。人間以外の生き物についてよく知ることは、人間である私たちを大きく成長させるという。

 著者は、小さい頃から「実は自分は馬だ」「馬じゃなくて犬だった」とまわりの人に宣言して育ってきたそうだ。タランチュラとの出会いでも対象を心から愛で、ごく自然にこのように書くに至っているのだ。

■タコと感動を分かちあうことが可能!?

 著者は『愛しのオクトパス 海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界』(小林由香利:訳/亜紀書房)という本を1冊書くほどタコについて精通している。著者とミズダコの“アテナ”との出会いは、まるでSF映画『メッセージ』の一場面のように、タコのもっている知性と神秘を伝えてくれる。

“興奮のせいで赤く変色している。すぐさま、両手を肘のあたりまで水に差し入れると、硬貨ほどの大きさの白い吸盤が、みるみるうちにわたしの肌を覆うようにして吸いついた。タコは全身の皮膚で味わうことができるのだが、こちらとしては吸盤で激しくこすられるような感覚だった。”

 今年10月にはアメリカの海洋学者が「夢を見て体の色が変化するタコ」を動画におさめてSNSでも話題になったが、そのような驚きのふれあいが、彼女の手の中でも起こったのだ。

 生き物同士の出会いには、当然別れもある。犬・ブタなど哺乳類との別れもさることながら、無脊椎動物であるミズダコのオクタヴィアが刻々と老化していく過程を見守るあたたかい視線や、愛のこもった別れの描写は、ヒューマン・ドラマに匹敵する感動を含んでいる。生きる喜びだけでなく、苦しみや悲しみをどのように乗り越えるかという深い学びも動物たちが教えてくれるのだ。

 他の人とはちょっと違った存在になる選択肢のひとつとして、あるいは、人間らしさを考え直すきっかけとして、「動物から学ぶ」ことについて考えてみてはいかがだろうか。

文=神保慶政