他人に左右されたくない人へ――力強くもしなやかな “銀色夏生流”生きかたエッセイは、読むクスリ!

文芸・カルチャー

公開日:2019/11/25

『力をぬいて』(銀色夏生/KADOKAWA)

 これは、圧倒的熱量で描かれたエッセイ集だ。読むだけで、こちらまで元気づけられるような、それでいて、ふっと程よく力が抜けるような、そんな作品だ。

 その作品とは、女性詩人で写真家の銀色夏生氏の『力をぬいて』(KADOKAWA)。銀色氏の執筆活動30年の集大成ともいえるエッセイ集だ。銀色氏といえば、写真詩集や36巻刊行している日記風エッセイ「つれづれノート」シリーズで知られている。本作はその執筆を通して感じたことや疑問に思ったことなどに彼女なりの区切りや結論が出た事柄をまとめている。ひとたび本を開けば、誰もがこの本に書かれた言葉に圧倒されるのではないか。この作品は、元々の銀色夏生氏のファンという人はもちろんのこと、初めて銀色夏生氏の作品に触れるという人にもオススメしたい。忙しい毎日を送る人たちが忘れている大切なことがこの本にはぎっしり詰めこまれているような気がするのだ。

自分の、人の、未完成さを受け入れることも大事。人の意見を認められない時、認めなくていいから放っておく、そのままただ言わせておけばいい。
――「未完成を受け入れる」

余計なことを考えず、ただ目の前のやるべきことを、ひとつひとつやっていこう。
それが自分をどこへ連れて行くか、なんてことも今は考えずに。
――「ひとつずつ」

毎日、ひとつの小石をつむように生きようとすること
つむと崩れるというイメージがあるなら
小石を横に並べるように
――「外的要因に左右されない個人的幸福の試み」

今日の天気がいちばんいい天気
今日見た景色がいちばんいい景色
――「今でいいのか」

 どうして銀色氏の言葉には、こんなにも包容力があるのだろう。すべてを包み込んでくれるような温もりがここにはある。「すべての恋愛は片思いである」「人との関係」「私と仕事」「未完成を受け入れる」「結婚が長続きしなかった理由」…。99のテーマについて書き綴られた銀色氏の言葉が、ある時には「格言」のように、ある時には「詩」のように、ある時には読者に「語りかける」ように、独特のリズムで展開されていく。

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 銀色氏はあとがきで、この本のタイトルを最初は「外的要因に左右されない個人的幸福の試み」としようとしていたことを明かしている。確かにこの本には、周囲の環境に左右されないように、自分らしく、率直に生きようとする銀色氏の姿があらわれている。その力強くもしなやかな姿に、私たちは胸打たれるのだろう。そして、自分が、いかに自分の本音を隠して、周囲の顔色をうかがいながら暮らしているのか気づかされるのだ。銀色氏の言葉を胸に、銀色氏のように、一日を丁寧に、まっすぐ生きたい。この本を読み終えた時には、背筋を伸ばして、しっかり前を向いて歩ける気がする。

 金言を、より一層際立たせる写真にもぜひ注目したい。パラパラとめくるだけでも、あたたかい言葉と、やわらかい写真に、癒される心持ちがする。銀色夏生的生き方を体感できるこの本は、疲れた私たちを救う特効薬になりうるだろう。

文=アサトーミナミ