「救急車を呼んでも来ない!?」少子高齢化の先にある恐ろしい未来をマンガで学ぶ『未来の年表』

社会

公開日:2019/11/27

『マンガでわかる 未来の年表』[漫画:水上航、監修:河合雅司(『未来の年表』講談社現代新書)]

 厚生労働省の人口動態統計(速報)によると、2019年の出生数が90万人を割る見込みとなった。国立社会保障・人口問題研究所は2017年の時点で、2019年の出生数を92万1000人と推計しており、90万人を割るのは2021年と予想していた。想定より早いスピードで日本の人口減少が進んでいるのだ。

 少子高齢化が日本の未来にもたらす影響は計り知れない。その未来に起こりうることを「年表形式」で提議してきたのが、作家・ジャーナリストの河合雅司さんの「未来の年表」シリーズだ。

 近い将来、地方都市から喫茶店や百貨店がなくなり、銀行がなくなり、病院さえもなくなり、やがて今ある47都道府県を「維持」することさえ厳しくなる。さらに、一時的に激増する高齢者さえやがて減り、一極集中で栄華を極めた東京も2020年代には人口減に転じるというのだ。

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 データを元にした予測によると、これらは現実となって起こりうる可能性が極めて高い。しかし、私たちを含めて国民、あるいは日本政府もこの事態を他人事のように考えているかもしれない。そこで改めて今読みたいのが『マンガでわかる 未来の年表』[漫画:水上航、監修:河合雅司(『未来の年表』講談社現代新書)]だ。

 本作は爆発的にヒットした『未来の年表』(河合雅司/講談社)の内容を分かりやすくコミカライズした1冊。主人公であり水先案内人「MIRAI」が、人口減少問題を軽くとらえる登場人物たちを未来へ連れていき、今から十数年以内に起こる現実をリアルに体感させていく。「本を読むのは苦手だけど、マンガなら興味あるかも」「流行した年表シリーズが気になっていたけれども、まだ読んでいない」という人にピッタリだ。

 また、『未来の年表』では描かれなかった、マンガならではのストーリーも収録し、私たちに押し寄せる「少子高齢化の波」をリアルに描いているため、年表シリーズを読んだ人でも、マンガで読めば手軽に復習できる。

 

「人手不足」は深刻に。助かるはずの命が助からない!?

 十数年後の未来は、今よりもっと生きづらくなるかもしれない。精神的な意味合いではなく、物理的な意味で、だ。まず身近なケースを挙げると、お店のレジが混雑する。高齢者が増え、「あれ、何を買おうとしたんだっけ?」といった時間がかかる一方で、サービスする若年層の人口が激減するからだ。

 同様に、電車やバスなどの公共交通機関は、利用者減少により廃線や間引き運転が各地で見られるようになるだろう。利用者が減少しても、電車のホームやバス乗り場がごった返すといったことは起こりうる。

 また、現在は便利だと感じている「ネット通販」も、配達事業者で人手不足が頻発するため、迅速な荷物運搬が困難になる。街の自動販売機の缶ジュースさえ補充が難しいかもしれない。「AI技術の発達でこれらの問題は解決する」と漠然と考える人もいるだろうが、そのAI技術者の数も不足するようになるので、開発スケジュールには相応の時間を要するのだ。

 さらに最大の問題は、救急隊員の人手不足だろう。高齢者の増加によって救急搬送の需要が増加する一方で、隊員の数は不足するので、「救急隊員がなかなかやってこない」事態が起きる。つまり助かるはずの命が助からないような時代がやってくるのだ。

 現に2017年の消防白書によると、119番通報を受けてから病院に収容するまでに要した時間は、2006年と2016年を比べて「7.3分」増加したという。救急医療の現場で約7分の差は非常に大きい。「少子高齢化の波」はすでに私たちを飲み込みつつある。

 この恐ろしい未来予測を目の当たりにして、まだ少子高齢化問題を軽視できるだろうか? これは世界に類を見ない大問題なのだ。

 

増加する万年平社員、志望校が選べなくなる子ども…

 本作は、私たちの身の回りで起こる激変をこのように分かりやすく描く。ここから先はさらなる異常事態を、ほんの少しだけご紹介したい。

 人口減少によって、企業に入社する新入社員は数が減る。そのため、40歳前後の働き盛りが、新入社員や後輩社員の雑用までをこなすことになる。さらに、国内全体の消費規模が縮小するため、賃金アップは難しくなる。社会保障費の負担は増え続けるため、生活は今よりも厳しくなりそうだ…。

 少子高齢化は、日本の未来を切り開くはずの子どもたちにも影響する。まず人口減少により、満足に学生数を集められない大学が激増する。そのため、一部の大学は安易な学生獲得策に走りかねない。特色ある教育や建学の精神が次々に塗り替えられ、落ち着いて満足な志望校選びができなくなる可能性があるのだ。

 また、学校の統廃合もますます進み、都道府県で代表校を選ぶ高校野球の大会の仕組みはもとより、学校対抗戦を原則としてきたスポーツ、文化種目の大会の在り方も見直されるかもしれない。

 ここまで紹介してきた日本の未来像は、どれも十数年後の話。つまり、早ければ2020年代から起こりうる間近の問題だ。私たちは、どうすればこの恐ろしい未来を書き換えられるのだろうか? 本書ではその解決策も提案する。

 

今からでも私たちの未来は書き換えられる!

 現実問題として日本の人口は、夫婦が2人以上の子どもを産まない限り、回復できない。だからこそ「戦略的に縮む」という考え方が必要だ。

 たとえばコンビニをはじめとする24時間営業は便利だが、今後キープするのは厳しいだろう。ネット通販による即日配送などのサービスも同様だ。これからはある程度の不便を受け入れ、不必要な労働力を減らし、救急隊や介護士など本当に必要な場所に労働力を割り当てる施策が要るだろう。

 さらに、人々がある「居住エリア」にまとまって暮らす必要性が発生する。エリア内の人口密度をある水準に保つことで、行政や社会インフラ、民間サービスなどが不自由なく行き渡り、必要とする働き手の人数を最低限に減らすことが可能になる。

 少子高齢化などの大きい問題に対して「政府が解決してくれ」と声をあげたくなりがちだが、自分たちにもできることはたくさんあるはずだ。香川県の高松丸亀町商店街がある方法で商店街の賑わいを取り戻したように、あるいは、徳島県の神山町があることをして過疎化の町に人の流れを生んだように、地域で団結すれば未来は確実に書き換えていけるのだ。

 本書には、日本の未来をより良い方向に書き換えるためのヒントが詰まっている。『未来の年表』を初めて目にする読者はもちろん、すでに読んだことのある読者も、ぜひ私たちの未来をリアルに描いた本作を読んでほしい。想定より早いスピードで人口減少が進んでいる今だからこそ、私たちが団結してやるべきことがある。そのアドバイスが読者に伝われば、日本の未来はきっと明るいものになるだろう。

文=いのうえゆきひろ