サンタクロースを派遣する“巨大な会社”にまぎれこんだ少女の秘密の物語『サンタ・カンパニー』

　おそらく世界中の家族が笑顔に包まれる日、クリスマス・イブ。その夜には、サンタクロースがトナカイの引くソリに乗って星空を駆け回り、子どもたちにプレゼントを届ける。

　ここで疑問が1つ、誰もが一度は考えたはずだ。「サンタさんひとりだけで、世界中の子どもたちにプレゼントを届けられるの？」と。サンタクロースには、誰にも知られていない秘密がきっとあるに違いない。

『サンタ・カンパニー』（糸曽賢志：原作、野口周三：構成、桃井優月・品川千陽：漫画/LINEコミックス）は、劇場アニメ「サンタ・カンパニー 〜クリスマスの秘密〜」にオリジナル要素を加えてフルカラーでコミカライズした作品だ。

　主人公は、可愛らしい少女ノエル。両親が離婚してしまい、パパと暮らしている。しかし、パパは仕事で忙しく、クリスマスの時期はひとりぼっち。モミの木をイルミネーションで飾って、七面鳥とケーキを囲んで、家族で楽しく過ごすクリスマスに憧れていた。

　ところが今年のクリスマスは少しいつもと違う。イブの前日にあたる12月23日、ノエルは「はぁー…また嫌な日が今年もやってくるのね」と嘆いて街を歩いていた。そこへ声をかけてきたのが、しわくちゃのちっちゃい婆さん87歳。なんでも占い師だというが、どうにも怪しい。ノエルが「占い師なの？」と聞くと、「お嬢ちゃんが初めて」と答える程度に怪しいのだ。

　ノエルはこの怪しげな婆さんから「クリスマスに一生を左右する何かが起こる」と告げられる。いやいや、まったく信用できない。自宅に帰ってからも「なんなのよあの占い師！」と思い出すノエルだったが…。翌24日、クリスマス・イブに本当に不思議なことが起きてしまう。

　いつものように学校からマンションへ帰ってきたノエル。自宅へと続くエレベーターに乗りこみ、到着を告げるチーンという音とともに扉が開くと…別世界が広がっていた！

　荷物を運ぶ腕っぷしの強いおじさん。なにかの組織の幹部らしきスーツ姿の男。関西弁でしゃべる偉そうなトナカイ。そして大きな教室でワクワクしながらなにかを待つ子どもたち…。

　ノエルは、なんとフィンランドにあるサンタクロースを派遣する巨大な会社「サンタ・カンパニー」に迷い込んだのだった。この不思議な会社で、ノエルは世界中の子どもたちに最高のクリスマスプレゼントを届けることになる。

　クリスマスを舞台に不思議な展開が巻き起こる本作。ページを読み進めるたびにワクワクする。そんなストーリーに翻弄されるノエルの姿も可愛い。これだけでも一読の価値があるのだが、本作にはドキドキするような伏線もあちこちに張られている。たとえば、なぜパパは娘に「誕生」という意味のラテン語「ノエル」と名づけたのか、なぜ関西弁のトナカイは、ノエルのママのことを知っているのか、あなたもきっとその答えを知りたくなるはずだ。

　なかでも一番気になるのは、冒頭でノエルを占った怪しい婆さんの存在。どうやらサンタ・カンパニーにまつわるワケアリの雰囲気が漂う。さらにコミックス1巻の最後に登場する、フードを被ったゾッとするような気味の悪い存在「ムック」とも知り合いのようだ。この先いったいノエルはどうなるんだろう…？

　ちなみに11月29日には糸曽賢志監督が原作・脚本・監督を務める劇場アニメ「サンタ・カンパニー ～クリスマスの秘密～」が公開予定だ。花澤香菜さん、梶裕貴さんら豪華声優陣がストーリーを盛り上げる。

　2019年もいよいよクリスマスが近づいてきた。世界中の子どもたちが、年に一度もらえるとびっきりのプレゼントを待ちわびている。夜空を駆け回る不思議な鈴の音が遠くから聞こえてきそうだ。

文＝いのうえゆきひろ
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