家族であることに幸せを感じられなかった。39歳男性が語った「ぼくの離婚」

恋愛・結婚

公開日:2019/11/29

『ぼくたちの離婚』(稲田豊史/KADOKAWA)

 6年連れ添った夫との離婚。それが筆者にとって、令和初の一大イベントになった。個人的には金銭感覚のズレが原因だと思ったが、彼は「価値観が違ったね」と言った。同じ出来事を経験してきたはずなのに、どうして2人が思う原因には差があるのだろう。その疑問を『ぼくたちの離婚』(稲田豊史/KADOKAWA)が解決してくれた。夫婦であっても、男と女の目に映る結婚生活は違うのかもしれないと思わされたのだ。

 本書はウェブメディア「女子SPA!」の人気連載企画を書籍化したもの。妻の言い分は一切聞かず、バツイチ男性たちに離婚の経緯や顛末を聞き、夫の「主観」のみで離婚劇を総括したルポルタージュだ。

 今の世の中、離婚は珍しくない。だが、離婚の体験談は女性視点で語られることがほとんど。男性は離婚という出来事を胸の中にしまい込んでいる。だからこそ、夫目線の離婚理由に目を向けたくなる。すると、彼らが語る離婚話には想像できないような「まさか」が凝縮されていた。

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■「僕は家族が得意じゃない」小説より奇なりな離婚エピソード

 本書で語られる体験談の中には妻の視点に立つと、納得できない理由も多い。だが、それがおもしろいのだ。中でも、印象的だったのが、中堅出版社で文芸編集者として働く橋本亮太さん(39歳)のエピソード。

 元妻・優子さんは、家族との暮らしや日々の小さな幸せを大切にする人。しかし、優子さんのその性格が結果的に離婚の原因になった。

 橋本さんは幼少期から両親が不仲で、家族団欒の経験がない。さらに、学生時代には寮生活で人間関係に悩まされ、他人に対する諦念が心に形成され、いつしか「いくら仲を深めても、他人と本当に関わることなどできない」と考えるようになったそう。

 優子さんとの結婚は責任感ゆえ。20代前半から付き合ってきた女性を30歳手前で放り出してはいけないと考えたからだ。結婚しても橋本さんは優子さんのように“家族である”ということに幸せを感じられなかった。子どもが生まれれば自分も変われるはず。そう思ったが、我が子が誕生しても責任感や愛情は湧いてこなかったという。

 母親となった優子さんは当然、橋本さんに父親の役割を求めた。しかし、彼はそれに応えることができず、夫婦仲は悪化し、離婚。優子さんとの結婚生活を通し、橋本さんが気づいたのは「自分は家族が得意じゃない」という事実だった。

「夫が子育てに協力してくれない」という妻の声はよく耳にするし、離婚にも繋がる不満だ。だが、夫目線でその事実をひもといていくと、また違った事実も浮かび上がってくるのではないだろうか。橋本さんの経験談を聞くと、そう思わせられる。そして、筆者もふと元夫の言葉を思い出した。あの人が口にした、見当違いだと思った離婚理由もきっと彼なりの根拠と理由があったのだろう。

 妻の不倫で離婚した人、自らのアルコール依存症が別れに結び付いた人、伴侶と別れたことにより人生の大切さに気づけた人など、本書には生々しい体験談が多数収録。書籍化のために書き下ろされた「メンヘラ妻の暴虐エピソード」は好奇心を刺激するだけでなく、同じ境遇で苦しんでいる男性の支えにもなる。

 ちなみに、著者の稲田さんはあとがきにて取材対象者にこんなメッセージをおくっている。

“あなたたちのその選択は正しかった。社会が、世間が、元配偶者が、どれだけあなたたちをなじろうとも、筆者はあなたたちの選択を尊重する。人生が有限であることに気づき、身を切る思いで「損切り」した勇気を心から称賛したい。”

 世のバツイチ全員に向けられたようなこの言葉を目にし、筆者は涙が止まらなかった。言葉では表現できない離婚の苦しみを共に分かちあえる心強さが、本書にはある。

文=古川諭香