中二病ならぬ高二病? 長すぎるセリフが止まらない、田舎の高校生たちの物語

マンガ

公開日:2019/12/1

『潮が舞い子が舞い』(阿部共実/秋田書店)

 高校2年生の甘酸っぱくない“しょっぱい”時間を描くのが『潮が舞い子が舞い』(阿部共実/秋田書店)だ。

 毎回ひとりの生徒にスポットがあたり、なんということもない彼らの青春が、阿部節とも言うべき哲学的な長ゼリフと共に語られる。そんな本作を紹介する。

 阿部氏といえばうまくやれないひとたちの物語『空が灰色だから』や『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』で話題になった。そしてガールミーツボーイストーリー『月曜日の友達』でも辛く苦しく、そして明るい少年少女の物語を描いてきた。では2019年9月に発売された第1巻を中心にレビューしていこう。

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■友情、恋愛… 取るに足りないことにてんやわんやの青春群像劇

 舞台は潮(しお)が香る海のそばにある、ちょっと田舎の共学高校。その2年4組を中心に物語はすすむ。

 青春群像劇と書くと高尚そうだが、ぜひ皆さんの高校時代も想像してみてほしい。16歳から17歳の子どもたちはみんな騒がしく、てんやわんやだったはずだ。本作の登場人物たちも甘酸っぱい…なんてドラマティックな展開は少ない(1巻時点では)。みんな何だか思ったようにうまくやれずに悩んで、でも楽しそうである。ちょっと“しょっぱい”高校生活は読んでいてほほえましく、楽しい。

 ハッキリとした主人公は不在で、出てくるキャラクターたちは月並みな言い方をして申し訳ないが、みな個性的。彼らを一部紹介すると…。

水木:おっぱい好き男子。同じ団地に住むマンガ家のお姉さん、湖港さんに憧れている。

百々瀬:水木の幼馴染の女子。ワイルドな男が好き。サンタを信じている。スカートが長い。

五十嵐:百々瀬と仲良しの女子で、水木との幼馴染的な仲をからかう。

火川:HなDVDを吟味する長身イケメン。水木と同じ団地に住む。

犀賀(さいが):ほんわかしつつ押しが強い女子。男女関係なく気さくに話してくれる。

右佐(うさ):マンガやゲーム好きグループの男子。真逆の意見しか言わない。

虎美:気が強い。時々素直。よくしゃべる女子。かわいいキャラと武器が好き。

バーグマン:日本生まれ日本育ちの北欧系女子。小難しいことを考え、超・饒舌にしゃべる。英語のテストは32点。

黒羽根:いかつい見た目でヤンキーだと恐れられている。実はクラスと馴染んでいきたいと考えている。

 こんな彼らが仲良しのグループ同士や、グループと関係なく絡み、“しょっぱい”時間をクロスオーバーさせていくのだ。今日も彼らのカオスな時間はすすむ。少しずつ。

■これぞ阿部節! 魅力はキャラクターたちのだべり劇

 本作は読むのに時間がかかる。なぜなら1Pのセリフ量が尋常ではないのだ。前章で紹介した2年4組のメンバーたちが勢いよくトークをする、会話劇、と言うよりだべり劇か。ときには哲学的で本質的、でもほとんどがくだらないこと、それらを彼らは一生懸命発言する。

 ここではセリフを引用して紹介する。ちょっと長いが、そこが魅力で重要だ。作品にとっても。登場人物たちにとっても。

いや今! おっぱい最高って言っちまったじゃねえか!
こいつ今おっぱい最高って言いましたよ! みなさーん!
お前は体液派だろ
血とか汗とか
眼球の湿り気とかに興奮こいとけよ! 男ならスジ通せ! (水木)

サンタは信じる者の所にしか来ないんだ
サンタを信じている子を
信じている私を 子が信じているのを私は信じている!

なあ五十嵐まだ気づかないか
サンタは五十嵐がサンタがいないと信じたい気持ちに応えるために
お前の記憶から存在を消すというプレゼントを最後にしたんだ
つまり最後のプレゼントを送られるまでは
お前はサンタを信じていたという証明でもあるし
そんな五十嵐がサンタが信じた証明でもある(百々瀬)

 ウン10年前、高校2年生の自分を振り返ると、友人数人でダラダラたくさんしゃべっていたことを思い出す。授業の合間に、昼休みに、部室で。でもなにひとつ覚えていない、内容のないことばかりだったように思う。ただこんなもんだったなあ、と本作を読んでしみじみ思った。なぜなら高校時代こそ、

人生で最もあほみたいに騒ぐ時期だろー(水木)

 だから、なのだ。

■いろいろ舞っている世界にひたろう

『潮が舞い子が舞い』は海のそばの田舎町のお話。そこでは潮(塩)が舞っている。そして子どもたちも騒がしく舞っている。私たちは彼らがひらひらと舞う世界を楽しめばいいのだ。あまり深く考える必要はない。高校生たちの取るに足りない時間をのぞいてみてほしい。

しょっぱいっすわ

しょっぱいすわー!

いろいろ!

文=古林恭