アイスランドの歴史と文化は…実に興味深い!

小説・エッセイ

更新日:2012/5/23

サガとエッダの世界―アイスランドの歴史と文化

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : インタープレイ
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:山室静 価格:648円

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著者は詩人であり、文芸評論家、翻訳家である山室静。

アイスランドとは、北大西洋上の孤島。面積は約10万平方キロと日本の北海道と四国を合わせたぐらいである。スコットランドからでも約800キロ、ノルウェーからだと約1000キロ離れている。首都はレイキャビク。島の平均温度零下1度。冬でも零下21度をくだるようなことはない。実はニューヨークやシカゴより、冬は暖かいのである。

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そしてサガとは、そのアイスランドに伝わるノルマン人の植民前後の歴史的な出来事を年代記風に記述したものであり、エッダは神話や英雄伝説を集めたものである。

本書は北欧文学・神話についての数々の翻訳書を残した著者によるサガ、エッダの文学史が語られたものである。

例えば、サガの登場人物となるノルマン人、特にヴァイキングについて詳しく語られている。ヴァイキングは辺境の民が寒さにやむにやまれず、新天地を求め、海上に進出した部族が起源となっている。彼らの行動規範が実にユニーク。北仏に侵略し、ノルマンディー公国を建国したロロ公の部下のエピソードがおもしろい。現地の人間から「君たちの王は?」と訊ねられた時、「我々に王はない。各人、平等である」と答えたという。ヴァイキングは当時から独特な民主主義を行動規範としていたのである。

例えば、ヴァイキングの掟にもその思想が垣間見える。50歳以上、18以下の者は戦士の仲間に入れない。仲間になるには、身内を捨てなければならない。戦士として同等の力や武勲を持つ者に背を向けてはならない。仲間の仇は必ず討たなければならない。どんな状況でも怖れの言葉を口にしない。闘いで得た財宝は、価値の大小に関わらず、全てを団旗の下に集める。これを実行しない者は追放される。ヴァイキングとして得た富は、遺産として息子に譲ることはできず、当人の死とともに墓に一緒に埋められる、などである。

本書ではアイスランドに残るサガ、エッダのエピソードが詳しく説明されている。だがその独特な文化風習も13世紀、アイスランド総督スノッリ・ストゥルルソンが親族に暗殺され、アイスランドを狙っていたノルウェー王の支配下に置かれると、衰えていく。結果的には当時の大国に吸収されてしまったわけだが、アイスランドという土地に独特の思想、文化が存在したことは大変興味深い。本書がその文化を知る足がかりになれば、幸いである。


ノルマン人の生活を語る住居

この船に乗り、ヴァイキングは海原へ出た

北欧神話の著名な登場人物

サガの写本。このような書物で後世に伝承されるのだ (C)Yamamuro,Shizuka 1992