限られた時間でどう子育てすればいい? 悩むお父さんの支えとなる「教科書」

出産・子育て

更新日:2019/12/5

『お父さんのための子育ての教科書』(七田厚/ダイヤモンド社)

 男性は育児や家事に対していつまで“お手伝い気分”でいるのかと叱るむきもある。だが、男性が積極的にやりたがらないのは「やり方を知らないから」という見方もある。マニュアルがないまま育児に取り組まなければならないのは女性も同じなれど、本書『お父さんのための子育ての教科書』(七田厚/ダイヤモンド社)は多くの男性女性にとって役に立つ子育ての教科書となるだろう。
 
 著者は、子どもの早期教育の重要性にいち早く着目して「七田式教育」を創始した七田眞氏の次男で、現在の株式会社しちだ・教育研究所代表取締役社長である。七田式教育の理論に限らず、早期教育については、子どもへの弊害を指摘する専門家もいるが、本書を読んでみると、問題の焦点となるのは“親の姿勢”のようだ。

■「幼児期の教育」は子どもだけでなく、親にとっても効果的

 そもそも早期教育が有効とされているのは、脳の神経細胞同士をつなぐシナプスの発達が幼少期に特に活発だとする研究に基づいており、それによると学習や運動といった訓練を早い段階で始めると身につきやすいという傾向がある。

 ただ、早期教育をすれば子どもが優秀になるとか、獲得した技術が伸びるといった単純な話ではない。本書によれば、子どもは短い時間でさまざまな物事を身につけることができるので、大人にとっても教える時間が短くてすむため、早期教育は「親子ともに楽で、ストレスが少なくてすむ」というのが早期教育の出発点だ。

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 幼い子どもが物事をできなくても当たり前。そういった時期ならば、大人もできないことについて焦らないですむだろうし、もしできるようになったら、それは子どもにとっても親にとってもうれしく楽しい記憶として残るはずだ。

 実際の効果にとらわれすぎないという点では、赤ん坊がお腹の中にいるときに行う胎教もそうだ。科学的に解明されていない事柄は多いものの、「親が愛情をもって声をかけることが重要で、胎教によって親と子の絆が育まれていきます」と著者は述べる。

■子どもを叱ることより、もっと重要なこと

 では、胎教から出産に関われなかったら親になれないのかといえば、勿論そんなことはない。大事なのは、ただ子どもを愛していると「思っているだけ」では駄目で、具体的な形にして伝えなければならない。

 その方法のひとつとして、『大無量寿経(だいむりょうじゅきょう)』という経典にある「和顔愛語(わげんあいご)」という言葉が参考になるそう。「柔和な顔(和顔)と愛情のこもった言葉(愛語)」を意味するこのフレーズを、子どもと接するときに心がけるといいだろう。

 自分自身が仕事などに追われ子どもと顔を合わせる時間が少ないときに、ついついその少ない貴重な時間を、(子どもの教育のためによかれと思ってとはいえ)「どうして片づけないの?」といった小言に使ってしまいがちだ。大人だって小言をいわれたらうれしくないのだから、まず「愛情を伝える」ことが子育ての大前提として必要なのだ。

 とはいえ、「甘やかすことと愛することは違う」と本書は指摘する。叱らない教育として子ども放任主義の方もいるかもしれないが、不足してはならないのは「子どもとの対話とスキンシップ」だ。

 子どもとの具体的な対話テクニックも本書で数々紹介されている。例えば、子どもが「今日はお稽古したくないな」といったら、相手の言葉をそのままくり返す「やまびこ話法」という方法がある。「そうか、今日はお稽古したくないか」と子どもの言葉をそのまま返したうえで、次に「じゃあ、何がしたい?」と質問をひとつつけ加えてみる。こうやって子どもを受け入れる姿勢を示しながら関係を築き、つけ加えた質問によって子ども自身に考えさせ、思考力や伝える表現方法を養っていく。

 本書を読み進めると、子どもを育てるということは「人間を育てる」ことにほかならないと実感する。本書でも、企業が人材育成を図るために「コーチング」を導入していることについて言及している。そのコーチングにおいて重要なスキルは、「承認(認めること)」だそうだ。お父さんが子育てに参加しようとするとき、周囲がまずその姿勢を「認める」ことでスキルをぐんと伸ばせるかもしれない。

文=清水銀嶺