タピオカ店の行列で順番待ちできるのはなぜ? 消費と時間の大切な関係

ビジネス

2019/12/6

『誰もが時間を買っている 「お金」と「価値」と「満足」の社会経済学』(鈴木謙介/セブン&アイ出版)

 無限なようでいてじつは有限なもの。「時間」はそのひとつだ。そして人それぞれ、時間の惜しみ方は違う。例えば筆者にとっては、それがさほどの時間ではないにせよ、人気タピオカ店前にできる行列に加わるのは無理な話だ。

 しかし並んでいる間のトークに花が咲く人たちにとっては、待ち時間も楽しみのひとつなのかもしれない。

 これからのサービス業においては、人それぞれに異なる「時間価値」をどう扱うかがとても重要だ、と教えてくれるのが『誰もが時間を買っている 「お金」と「価値」と「満足」の社会経済学』(鈴木謙介/セブン&アイ出版)だ。

 本書は、関西学院大学准教授で社会学者の著者が、これまであまり語られてこなかった「時間と消費」の関係についてわかりやすく解説する内容だ。そして、主に商品やサービスを提供するサービス業に従事する人たちを対象に、「時間価値を高めることが、これからのビジネスの鍵を握る」と説いている。

●東京ディズニーリゾートとUSJは真逆の方法で「時間価値」を高めている

 いったい「時間価値を高める」とは、どういうことか。著者はわかりやすい例として、東京ディズニーリゾートが提供する「ディズニー・ファストパス」と、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が提供する待ち時間を楽しませる工夫を対比させて解説している。

 ディズニー・ファストパスは、アプリなどで取得(無料)することで人気アトラクションの待ち時間を減らすことができるサービスだ。そのため、これまで待つことで費やされていた時間を、他の楽しみに使えるようになった。

 このように、ムダと思われる時間を短縮して消費に関わる時間価値を高める手法を、著者は「減算時間価値の提供」と呼んでいる。

 一方、USJでは、待ち時間が長い人気アトラクション「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」では、行列に並んでいるうちに魔法学校の中へと入り込み、楽しみながら待つサービスが行われている。

 このように無価値になりそうな時間に価値を与え、消費に関わる時間全体の価値を高める手法を、著者は「加算時間価値の提供」と呼ぶ。

●「コト消費」の本質は、「時間価値を高めること」にある

 ディズニーやUSJなどは、単にモノを買う「モノ消費」ではなく、現在主流とされる感動体験を消費者に提供する「コト消費」の代表でもある。

 しかし著者は、「コト消費」の本質を見誤るな、と説いている。

 もし「コト消費」の本質が、感動体験であれば、それはやがて、いたるところで飽和状態となり、消費者が時間やお金を払うことはなくなるという。

 そうではなく、ディズニーやUSJの事例からもわかるように、「コト消費」の本質は、「時間価値を高めること」にあると結論付ける著者は、こうアドバイスする。

 むしろ(体験の内容ではなく)これからの時代に必要なのは、「その体験に時間を支払ってもいい」と受け止めてもらえるような価値を提供することです。

 “時間を支払う”という考え方が肝なのである。

 おそらく「自社の提供する体験をどう魅力的なものにするか」と、発想した人は多いだろう。そうではなく、消費者の立場から「どのような時間価値なら他よりも優先するか」を考えるのが、これからのサービス業従事者に求められる発想なのだそうだ。

 本書の後半は、時間価値について消費者視点で考えるためのアドバイスが、実例とともにいくつも記されている。

 例えば、自動掃除機ルンバや放っておくだけの調理器ホットクックなどは、時短家電ではなく「時産家電」と呼ぶそうだ。家事を任せてその隙に別の作業ができる「時間を生む」からである。これらも時間価値を考えた商品の一例だ。

 またネット系ショッピングサイトで一般的になった「あなたにおススメの商品」なども選択にかける時間を軽減することで「減算時間価値の提供」になる。

 人生で有限な時間をいかに有効に使うか。消費者は、そのことを無意識的にも考えながら消費行動をしている。そんな消費者目線から生まれる製品やサービスについて考えてみたい人は、ぜひ、本書を手にしてみるといいだろう。

文=町田光