「かわいい~」…でも死んだら残酷に冷凍庫行き。ペットブームの陰で泣く「奴隷にされた犬や猫」

社会

公開日:2019/12/4

『「奴隷」になった犬、そして猫』(太田匡彦/朝日新聞出版)

 売れ残った子犬を冷蔵庫に入れて殺すペットショップ、違法業者がはびこるペットオークション販売…今から9年前に発刊された『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(太田匡彦/朝日新聞出版)は、ペット業界の残酷な闇を明るみに引きずり出したルポ。著者が取材した「犬ビジネス」の実態は、多くの人々に衝撃を与えた。
 
 あれから時は流れ、当時よりも殺処分をなくしたいと願う人も確実に増え、行政も動物愛護の取り組みを行い始めている。2018年には和歌山市が猫の殺処分を減らすため、「ガバメント・クラウド・ファンディング」(※自治体が行うクラウドファンディング)を行い、話題になった。また、今年の6月には改正動物愛護法も成立したばかりだ。
 
 だが、動物愛護の精神がきちんと広まりつつある一方で、いまだに「奴隷」のように扱われている犬猫は多いという。『「奴隷」になった犬、そして猫』(太田匡彦/朝日新聞出版)は、そうした現状に目を向けるさらなる1冊だ。

■動物愛護法をかいくぐる悪徳業者たち

 今年改正され話題になった動物愛護法は、動物の虐待や不適切飼育を防止するための法律。だが、著者いわく、動物愛護法の“曖昧さ”が動物の命を守れない要因になっているという。

 例えば、アメリカやドイツなどの動物愛護先進国では、犬猫を飼育するケージに必要な広さを具体的な数値で規定している。ところが、日本ではその数値規制はない。法律上では「日常的な動作を容易に行うための十分な広さ及び空間を有するものとすること」というように、定義が非常に曖昧であるため、繁殖業者の不適切飼育について行政が指摘・指導しにくくなっているのだ。

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 また、法律の網をかいくぐって金儲けを企む繁殖業者もいる。ブリーダーやペットショップから犬猫を迎えたという方は、かわいいペットの血統書に書かれた生年月日を確認し、自分の家族のように誕生日を祝っているかもしれない。しかし、日本では幼い子犬や子猫が消費者に好まれやすいため、ペットオークションでの落札価格も高くなるという。そのため、出生日を偽って、犬猫を出荷・販売する悪質な繁殖業者がいるというのだ。

 2012年の改正で犬猫の販売は生後56日以降とされたが、附則の注記により生後49日(2016年9月までは45日)以降と読みかえる経過措置が設けられ、実質生後49日以降であれば販売することが可能だった。今回2019年の改正では動物先進国と同じく、正式に「8週齢規制」となった(ただし日本犬6種を除く)。これはペットを愛する者にとって非常に喜ばしいことだが、以前から存在していた悪質な繁殖業者にとってはお構いなしなのかもしれない。命をまるで物のように扱う業者が甘い汁をすすらないためにも、私たちはもっとペット業界の「裏側」にも目を向ける必要がある。

■人の都合で「増産」される猫たち

 ここ数年で猫ブームというフレーズも聞き慣れてしまったほど、猫が注目されている。だが、多くの猫好きは口をそろえてこう言う。「猫ブームなんて早く終わってほしい」と。なぜならば、ペットブームの裏にはいつも何かしらの犠牲があるからだ。人々がブームに沸く中、シベリアンハスキーやチワワがたどってきたよりさらに苛酷な道を、猫は歩もうとしている。なぜなら、猫は犬では不可能な「増産」ができるからだ。

 春の鳴き声を思い出すとわかるように、猫は季節繁殖動物だ。日光や照明にあたる時間が1日8時間以下だと発情期は来ないが、習性を利用して12時間以上照らしていると1年を通じて発情期が来る。こう企んで、蛍光灯を1日12時間当て続ければ効率のいい繁殖ができると教えるような、繁殖業者向けのシンポジウムが開催されているという。

 命をなんだと思っているのだろうか。猫ブームの裏に渦巻く思惑を知ると、そう憤りを覚える。

 ペット業界が隠そうとしてきた事実を明るみに出す情報は、あまりない。本書は筆者にとっては、いち猫好きとしても、そして動物に携わるライター職としても、胸に突き刺さる1冊だった。本書のページを開けば、きっとあなたの胸にも奴隷にされたペットたちの悲鳴が届くはずだ。

文=古川諭香