タダで検索し、無料のゲームで遊ぶ…もうすぐ「お金がなくなる」って本当!?

ビジネス

公開日:2019/12/5

『2049年「お金」消滅 貨幣なき世界の歩き方』(斉藤賢爾/中央公論新社)

「お金はもうすぐ消える」
「仕事は? 国は? 学校は? あなたはどうなる?」
という、衝撃的な帯の1冊がある。『2049年「お金」消滅 貨幣なき世界の歩き方』(斉藤賢爾/中央公論新社)だ。経済の専門家ではなくても、お財布から出し入れしているお札やコインの利用が減って、電子マネーを使う割合が増えるのだろうという予測は立つ。しかし、だからといってお金という概念が消えるわけではないから、お金が消えるとまではいえないのでは?と半信半疑で本書を読み進めた。
 
 本書の3分の1ほどのところまでは、昨今のキャッシュレス化の傾向や、暗号資産の仕組みが書かれている。暗号資産、例えばビットコインは投資商品として紹介されていたのを見聞きしたもののあまり明確なイメージはなかったが、暗号資産の仕組み自体はとても有益だという。この仕組みはブロックチェーンと呼ばれており、誰もがいつでも不正な書き換えがなされていないかチェックできる状態にある。万人の目により、その通貨の信頼性を保つというわけだ。
 
 もし暗号資産が、投資目的ではなく実際に生活の中で多く使われ出したら、国や中央銀行がお金を発行する必要がなくなる。今のところ現実的な想像はしにくいが、もし実現したら、お金の価値観はガラリと変わるだろう。

■無料サービスが広がることで、お金の価値が変化する

 でも、価値観が変わりはしても、やはりお金という概念は消えないのではないか?と思いつつ読み進めていく。

 すると、こんなフレーズに出くわした。

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“広がり始めた「無料」の世界”
“「使わない」「稼ぐ必要が無い」世界というものも急速に拡大し始めています”

 確かにいわれてみれば、私たちはLINEをはじめ無料のアプリやサービスを日々利用し、Googleを当然のようにタダで使っている。無料のコンテンツは広告費によって収益を上げる仕組みになっているのだ。

 こうした現状に加えて著者は、さらに進んだ“無料の世界”を構想する。世の中に影響を与えるようなコンテンツを開発するには、利益化(マネタイズ)をゴールにした開発ではなく、新たな仕組み、新たなワールドを作るつもりの方が上手くいくというのだ。

 実際に、Facebookはハーバード大学の学生、Googleはスタンフォード大学の学生が立ち上げたものだ。マネタイズは後でいい、極端なことをいえばマネーなど自ら刷ればよいとまで本書は述べ、千代田区にある「未来食堂」に関する事例を紹介している。この食堂は、スタッフとして働いてくれる“お手伝い”を常に募集しており、その労働の対価として食事券をもらえる仕組みになっている。食事券は自分のために使ってもいいし、不特定の誰かにあげてもよい。雇い主が労働者に賃金を払う、客が食事代を店に払うという金銭のやり取り以外の方法も使って、お店が成り立っているのだ 。この食堂は経済的に困難で食に困っている人の助けとしても活用されており、貧困対策の面からも注目されている。

■社会はすでに「お金消滅」へ向かって動いている?

 さて、無料が増えるのはうれしいが、すべてが無料になりお金が消滅…という社会が実現する可能性はあるのだろうか? 著者は、カギとなるのは「食料」と「エネルギー」だという。食料がお金誕生前の狩猟採集社会のように調達でき、電気 が太陽光などの再生可能エネルギーから家庭ごとにまかなえれば、可能だというのだ。

 これらをすぐ実現する手立てや道筋は思い浮かばないが、日用雑貨品ならばお金を使わなくても入手できる未来がすぐ近くに見えている。そう、そこで活躍するのは3Dプリンターだ。必要なものは自作し、既製品を買う必要がなくなるというわけだ。

 これが実現し広がっていけば、物を作ったり売ったりする仕事は大幅に消滅していくことになる。しかも、この変化について憂え たり焦ったりす る必要はない。お金がほとんど必要ないならば、働かなくてもよいのだから。研究開発やボランティアなどをしたい人は収入を気にせずに行い、何もしたくない人は“堂々と”何もしない。また、社会全体にシェアや融通がきくネットワークが構築されれば、さらにお金の出番はなくなっていくだろう。

 お金がない社会――まだまだSFの世界のように思えてしまうが、今の社会の閉塞感を打ち破る手段として、真面目に考える価値は大いにありそうだ。

文=奥みんす