文学好きの保存版! 芥川賞の受賞作品から、その時代の背景を丁寧にひもとく『芥川賞ぜんぶ読む』

文芸・カルチャー

2019/12/7

『芥川賞ぜんぶ読む』(菊池良/宝島社)

 本好きにとっては、非常に馴染みの深い芥川賞。本書『芥川賞ぜんぶ読む』(宝島社)は、ヒットとなった『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』の著者である菊池良氏が1935年から続く芥川賞受賞作品をすべて読んでまとめた一冊だ。受賞作はなんと84年間分で180作品。この膨大な量の本を菊池氏はおよそ1年かけて読み、WEBメディアで連載していたのだが、書籍化が決定したことにより著者は会社を辞めて、芥川賞をぜんぶ読むことに専念する。

 芥川賞の作品がすべて掲載されている本書だが、最初に著者が選ぶ「昭和受賞作ベスト20」とあり、作品のあらすじや芥川賞作家のバックグラウンドなどバラエティに富んだ紹介文がズラリ。書籍ごとに紹介する内容が異なり、第1回の受賞作品から順を追うように紹介していないところが、本書をより興味深いものにしている。紹介文には、タイトルや作家名のほかに、受賞年や発行部数などの記載があり、データとしても読み解くことができる。

 また、1976年に受賞した村上龍の『限りなく透明に近いブルー』の場合は、物語の概要とともに、村上龍のプロフィールやその後の活躍、センセーショナルな作品だったため芥川賞の選考委員が戸惑いながらもその才能を認めざるを得なかった様子などが記されている。1955年受賞作の石原慎太郎の『太陽の季節』が30万部のヒットとなり、アロハシャツにサングラスをまとい、海辺で享楽的な日々を過ごす若者を称した「太陽族」という言葉が流行したといった時代背景や、文豪たちの意外な素顔など、物語の紹介とともにちょっとした小ネタがちりばめられており、文学作品がより身近になるのだ。

 綿谷りさの『蹴りたい背中』が最年少の受賞者であったことや他にも最高齢の受賞者、受賞作家の出身都道部県別データや受賞年齢データなど、あらゆる角度で芥川賞について考察しているので、自分と同じ出身県の作家を探したり、同じ年齢の著者の作品を読んだりと、今までとは違う角度で芥川賞を楽しむことができるはず。

 本書内には、手塚治虫風漫画で知られるつのがい氏による芥川賞にまつわる漫画がテンポよく織り込まれているので非常に読みやすく、ちょっとした空き時間につい開きたくなる。

 おわりに著者の言葉がある。

そうして約1年かけて読みきった私は、ちょっとこれを言い切るのは恥ずかしさもあるのですが、感動しています。それは無茶だと思っていたことがやれた達成感ではなく、あらゆる時代にいい小説を書こうとしている人がいたという感動です。

 芥川賞を受賞した作品を知りながら、読書を通して文豪たちの熱量を理解することで、どの時代にも文学のための熱い思いがあったことに心を揺さぶられる。読書の指南書として、保存版といえる一冊だ。

文=ナガソクミコ