『人面瘡探偵』奇怪な“相棒”を頼りに、人間の欲望を暴く!

文芸・カルチャー

2019/12/9

『人面瘡探偵』(中山七里/小学館)

「金田一耕助」シリーズで有名な横溝正史ファンの人にうれしい知らせだ。絡み合う人間の欲望や奇怪な事件…横溝ワールドを彷彿とさせるミステリーが新しく登場した。
 
『人面瘡探偵』(中山七里/小学館)は、土地家屋の評価を専門とする相続鑑定士の三津木六兵が、信州随一の山林王である本城家に派遣されるところから始まる。二束三文だと思われた山林に価値があるとわかり、目の色が変わる相続人たち。だが、翌日から次々と相続人が不可解な死を遂げていく。六兵は毒舌で切れ者の“相棒”の力を借り、二人三脚で事件に挑む。

■名探偵の相棒は意外な“怪異”

 読者が受ける本作の新しさは、まず主人公の設定にある。三津木六兵は平凡な青年だ。面倒ごとはできるだけ避けて平和に暮らしたい。コミュ障だから、モノ相手の鑑定士になったくらいだ。上司の顔色を見ながら、日々事務的な書類仕事をくり返している。

 そんな彼には人に言えない秘密があった。幼いころから自分の右肩にとりついた妖怪「人面瘡」の存在だ。この人面瘡ときたら口が悪くてやたらと偉そうだが、冷静沈着で物知りな一面もある。はじめは怯えていた六兵も、次第に人面瘡に慣れ「ジンさん」と呼んで頼るようになる。何より、ジンさんは六兵のことを誰より知っているから、アドバイスも的確なのだ。

■主人公ふたり(?)の関係性からも目が離せない

 ふたりの関係性は、一見ジンさんに主導権があり六兵は言われるがまま動いているように見える。しかし、そう単純でもないようだ。ジンさんは人前に出ることができないから、実際に調査で動き回ったり関係者と話をしたりするのは六兵の仕事だ。ジンさんの指示があるとはいえ、それがどこまで実行できるかは六兵にかかっている。

「よく考えてください。藤代さんたちから聞かされるのは遅かれ早かれ法廷で公開される情報です。でも僕が提供するのは僕にしか提供できない情報です」
 ひどく傲慢な物言いだが、これもジンさんの入れ知恵だ。交渉する態度は居丈高なくらいがちょうどいい――そうジンさんに吹き込まれた。
 藤代の品定めするような目がふっと外れる。
「これまで何百人と取り調べてきて、少しは人を見る目が養われたと思っていたが、まだまだだった。あなた、おぼこい顔をして結構えぐい取引をするんだな」

 内心ひやひやしながら警察と渡り合ったり弁護士を言いくるめたりと、六兵の働きがなければ事件は解決へ近づかない。そして、根っこの部分でお人好しな六兵は、困っている人を放ってはおけないのだ。

 ジンさんも六兵の意思を尊重している。一方、ジンさんからすれば、どうしてこんな単純なことを見落とすんだと、ついどやしたくなるのだろう。ジンさんの容赦ない突っ込みは、気安さや兄心の表れかもしれない。

 物語全体に漂う妖しい雰囲気と、ふたりのどこか微笑ましい軽妙な掛け合い、そして二転三転するストーリーの行方を楽しんでほしい。そして最後には著者ならではのどんでん返しが待っている。

文=白楽望