「人生ゲーム」に人生を賭けた男!? 好きなことを仕事にする成否のポイント

ビジネス

公開日:2019/12/18

『戦略と情熱で仕事をつくる』(松永直樹/ダイヤモンド社)

 6歳で「人生ゲーム」と出会ってボードゲームに没頭した少年は、大人になってボードゲームソムリエという職業に就いた。いや、職業に就いたというよりも、職業を“創り出した”というほうが正しいかもしれない。自分にしかできないことを突き詰める難しさと勇気を教えてくれる『戦略と情熱で仕事をつくる』(松永直樹/ダイヤモンド社)は、自分の好きなことを仕事として成立させるには「覚悟と熱意」が必要だということを教えてくれる。
 
 本書の前半で著者は、「ボードゲームソムリエ」として生きる覚悟を決めるまでの過程を振り返っている。ボードゲームソムリエとは、ワインのソムリエのようにボードゲームを人に紹介したりイベントを企画したり、あるいはゲームそのものの開発やプロデュースに携わったりと、ボードゲームのさまざまな魅力を形にして紹介する生き方だ。
 
 著者は分からないことがあったら関連する本で研究したり、ボードゲームを広めるため積極的に人に会いに行ったり、あるいは女性とデートに行くにしても出会い系サイトでのメールのやりとりを研究して「マジックメーラー」と呼ばれたりと、考えを行動に移すスピード感やフットワークの軽さを持ち合わせていた。しかし、最初に入社した会社ではそのスピード感がネガティブな形で働くことになる。入社2カ月でスピード退社したのだ。その後家に引きこもったという著者は、世界的ロングセラーの『道は開ける』(デール・カーネギー)の言葉に触れ、こう考えた。

“僕は本にある不幸の話や、解決方法を読んでいたら、だんだんと自分の置かれた状況が、たいしたことがないと感じられました。
レールを外れるって、別に大きな失敗じゃない。もしかしたら、チャンスなのかもしれない。そう感じられたのです。”

 こうして、ボードゲームソムリエとしての「覚悟と熱意」が静かに芽生えはじめた。本書の後半では、自走しはじめた著者が、成功や失敗を意識することをやめ、困難、恐怖、不安に打ち勝ちながら、まだ誰もなったことがない“職業”を創り出し、その仕事を刻々とアップデートしていく過程が描かれている。

 この流れの中で見えてくることは、単純に「好き」なだけでは仕事は成立しないということだ。では、どうすればいいのだろうか? 著者は「好き」に「強み」をかけあわせることが重要だと主張する。

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 著者のいう「強み」とは、「お金をもらわなくてもやりたいこと」だ。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、「タダでもやりたいこと」を強いモチベーションで続けていると、「ただ者ではない」と認識され、稼げる力となっていく。「ただならぬ情熱」で周囲を巻き込みはじめた著者が開発に関わったボードゲーム「7つの習慣」は、クラウドファンディングで1254万円を調達し、ボードゲームでは日本初の1000万超え企画となって話題を集めた。 

“「誰もやってない」ことは、恐れや不安が大きいかもしれません。でもそれは、裏を返せば競争相手がいない最高の環境です。先行者となって圧倒的に優位な立場を獲得することができます。”

「覚悟を決める」――言うは易く行うは難し、とはまさにこのことだろう。だが覚悟を決めればそれは熱意につながり、熱意が情熱になり、自ずと戦略ができ、戦略が稼ぎを生み出す。「自分の好きなことを仕事にする」――覚悟を決める第一歩を踏み出す勇気、そしてその先につなげていく戦略的ヒントを読者に与えてくれる1冊だ。

文=神保慶政