フェイクのはずの歌姫の才能は本物だった!? 才能と成功をめぐるトラジックコメディ『うたかた姫』

文芸・カルチャー

2019/12/21

『うたかた姫』(原宏一/祥伝社)

 公演費用を代表に持ち逃げされた「劇団ゆうまぐれ」のメンバーは、起死回生を懸け、舞台の脚本をリアルな世界で実行しようと計画する。駅前で弾き語りしていた女の子を天才シンガーに仕立て上げて、売り出すフェイクプロジェクトを開始。しかし彼女の歌声は本物の輝きに満ちていて、計画を思いもかけない方向へ導いてゆく…。

『床下仙人』(祥伝社)でブレイクし、近年は『ヤッさん』(双葉社)、『佳代のキッチン』(祥伝社)など食と人情をはじめとしたさまざまなテーマの小説で活躍する原宏一さん。最新作『うたかた姫』(祥伝社)は、音楽業界を舞台にした奇想天外にしてリアリティたっぷりなサクセス(?)ストーリーだ。

 語り手は「劇団ゆうまぐれ」の音楽担当・亮太。彼は、節子ことフェイク歌姫“姫花”の秘められた才能に誰よりも早く気がつき、フェイク計画での使い捨てではなく、歌手として本当に成功させてあげたいと思うようになる。やらせ路上ライブの動画配信に、行き当たりばったりの香港ストリートパフォーマンス、その過程で知り合った往年のプロモーター・猪俣翁も一枚噛んできて、前半はシリアスとコメディ的な展開が交互に押し寄せる。

 亮太らの思惑に反して姫花はなかなかブレイクせず、現実(リアル)はそうそう脚本(フィクション)どおりにはいかない。そこで猪俣は、SNSを駆使した彼らの戦略とは正反対の地道な地方営業を提案する。ワゴン車で地方のライブハウスやスナックを巡り、CDを手売りして、地道に姫花を知ってもらおう、と。

 ものごとは急がば回れ――手っ取り早い方法で成功を収めると、やはり手っ取り早く凋落してしまうものだ…と。

 業界の裏も表も見てきて、甘い汁も辛酸も舐めてきた猪俣。彼の助言に従って東北ドサまわりを敢行するうちに、一見ぽわんとしていて天然な姫花が、実は烈しい情熱を秘めている女性であることが分かり、いつしか亮太は惹かれていく。姫花もまた、彼は何があっても自分の味方なのだという信頼感を抱くようになる。

 2人の関係が深まっていくなか、とうとう姫花が国内外で同時多発的にバズり、当初の計画をはるかに超えた大スターへ急速に祭り上げられていく。それと同時に劇団内の人間関係は軋み、後半では姫花ビジネスの利権をめぐって仲間たちは醜い争いを繰り広げるようになる。

 いい芝居を作るための資金確保の手段としてはじめたはずのフェイクプロジェクト。なのに次第に手段が目的となり、夢を追っていた若者たちは薄汚い嘘に呑み込まれていく。

 彼らに利用されていることを知りながらも姫花は歌う。

「ぐるぐる ぐるぐる ひとは ぐるぐる」

 人間はずっとぐるぐるしている。翻弄されたり、迷ったり、互いに騙したり、騙されたり、憎んだり、愛したり。うたかたのような感情をぐるぐるさせながら生きている。

 破滅に向かいつつあるプロジェクトの終わりを見つめ、絶唱する姫花。その終盤のライブシーンには、天才と呼ばれる者だけが到達できる恍惚と哀しみが流れている。そして、その場に立ち会っている亮太と同じように、読んでいる私たちも心がぐるぐる動きだす。

文=皆川ちか