『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開! こうの史代と片渕須直監督が語りつくした4年間の想いとは?

文芸・カルチャー

更新日:2019/12/21

『「この世界の片隅に」こうの史代 片渕須直 対談集 さらにいくつもの映画のこと』(文藝春秋)

 2016年11月12日に公開された映画『この世界の片隅に』。当時はまだ珍しかったクラウドファンディングの活用や、初公開から1日も途切れることのない1000日を超える異例のロングラン、そしてインドネシア、イギリス、スペイン、台湾、アメリカ、フランスなど海外でも公開されるなど話題となり、大ヒットを記録した。その映画に250カット以上、約30分の新たなシーンとエピソードを加えた『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が、2019年12月20日から公開された(ドキュメンタリー映画『<片隅>たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』が1週間限定公開。12月19日から配信開始)。

 その公開を前に、原作漫画を描いたこうの史代さんと映画化した片渕須直監督が、描かれたキャラクターや時代背景、舞台、戦争のことなどについて、映画公開前の2015年から2019年までの約4年間に対談した内容を一冊にまとめた『「この世界の片隅に」こうの史代 片渕須直 対談集 さらにいくつもの映画のこと』(文藝春秋)が出版された。

 本書には以下の対談とトークショー、インタビューが収録されている(全7章)。

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(第1章)
2015年10月17日 練馬区「練馬アニメカーニバル2015」(練馬区立練馬文化センター小ホール)
「『この世界の片隅に』公開まであと1年! 記念トークイベント」

(第2章)
2016年8月20日 呉市美術館「マンガとアニメで見る こうの史代『この世界の片隅に』展」関連イベント(桜松館)
こうの史代×片渕須直トークショー」

(第3章)
2016年10月23日 「COMITIA118」会場内企画(東京ビッグサイト)
「アニメ映画『この世界の片隅に』片渕須直(監督)+こうの史代(原作)公開トークショー」

(第4章)
2016年11月20日 ロフトプラスワン
「『この世界の片隅に』公開記念! ネタバレ爆発とことんトーク!」
こうの史代氏、片渕須直氏に加え、第一部にはプロデューサーの真木太郎氏、第二部には映画で声を担当した尾身美詞氏、新谷真弓氏、岩井七世氏が参加している。

(第5章)
2018年8月20日 呉市美術館・大和ミュージアム
「映画『この世界の片隅に』ロケ地の場所を見よう会 呉編」

(第6章)
2018年8月29日 池袋会議室
「片渕須直、こうの史代対談」
※ローソン限定で販売されている「文春ムック 週刊文春エンタ!アニメの力。」に掲載されている「僕らが調べながら描く理由」は、この対談に加筆修正し、再構成した短縮版。

(第7章)
2019年8月21日 MAPPA会議室
「片渕須直監督単独インタビュー」

 公開前の映画製作時から、公開してすぐのタイミング、久々の対談、そして『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を制作している最中のインタビューで構成されているので、ぜひ頭から順に読んでいってほしい。史実を徹底的に調べ、時代考証をした上で画面の隅々まで丁寧に描写されるものや世相、こうのさんが原作を描く際に何を考えていたか、片渕監督が映画を作るにあたってどんなことを行ったのか、その過程が手に取るようにわかる。また話の中に出てくる内容についての詳細な注釈、豊富な資料写真や漫画、映画の場面写真も収められている。

 片渕監督は『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』について、第7章のインタビューでこんな発言をしている。

すずさんのまわりにいる人たちが、もっと見えるようになるといいんじゃないかと思っていました。『この世界の片隅に』(原作および前作映画)は、明らかにすずさんの一人称の視点でつくられているんですけど、『さらにいくつもの』ではもっと多面的なところが入ってくるのは間違いないですね。

 約460ページの濃密な本書で描かれるのは、さらにいくつもの片隅に生きる人たちの世界だ。完全版でも続編でもない、新たに生まれ変わった映画を見る前に、そして見た後に、もちろん原作を読む際にも楽しめる一冊だ。

文=成田全(ナリタタモツ)