夫の浮気を日記で知り、自身も夫以外とのセックスに溺れていくーー背徳感たっぷりの官能マンガ

マンガ

公開日:2019/12/22

『しおりの日記』(艶々/日本文芸社)

 文豪・谷崎潤一郎の『鍵』という小説を知っているだろうか? この小説は、お互いに盗み読みされることを期待して、日記を書き続ける夫婦の物語。日記に記されているのは、相手に直接話すことは憚られる性的な欲望や夫婦生活への希望だ。夫の日記と妻の日記が交互に登場するのだが、2人の娘や、娘の縁談相手である男性も巻き込み、相手を思いのままに翻弄しようとする夫婦の歪んだ愛欲が描かれている。

 艶々先生の『しおりの日記』(日本文芸社)は、この『鍵』をヒントに描かれたというマンガである。主人公は、黒田詩織・34歳。結婚9年目で、子供はおらず、夫と2人暮らしの女性だ。地方都市のホテルのラウンジで働いており、関西弁がチャーミングな、平凡であることに幸せを見出す主婦。だが、そんなある日、彼女は同窓会で高校時代の恋人・芹生と再会し、そのままセックスをしてしまう。もともと淡白な夫とは、セックスレス状態に陥っており、約3年ぶりのセックスは、詩織をケダモノに変えた。自分でも驚くほどの声を出し、頭の中が真っ白になるほど貪欲に快感を貪り尽くしたのである。

 実は詩織は、これまで不倫などしたことがなかった。しかし、1週間前、夫の書斎を掃除中、本棚の奥で夫の日記らしきものを見つけてしまう。はじめは官能小説を執筆しているのかと思ったのだが、場所のディテールや日時から、夫の愛人との記録だと断定する。そのため、「お互いさま」という免罪符が罪の意識を薄め、出張であと1週間ほどこちらに滞在するという芹生と、また会う約束をしてしまうのだ。ホテルから出ていくところを、職場の新人ベルボーイ・24歳の沙野透に見られているとも知らずに…。

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 本書は、これまで平凡な主婦だった詩織が、火のついた情欲を抑えることができず、夫以外の人と快楽に溺れ続ける様子が、艶かしく描写されている。詩織は、自分の職場であるホテルでもリスクを冒してセックスをする。そして、その様子を夫と同様、日記に残していく――。

 破滅への道を歩み始めているようにしか見えない詩織。しかしながら、夫の日記を内緒で手に取り、出張中に愛人と共に、まったりとホテルにて裸で戯れている様子が綴られているのを羨ましく読んだあと、自慰行為をして、

「うちはセックス出来る時間の前と後ろに“生活”があるからや… だから…ほんの束の間の それを必死で貪るんや」

と、切ない表情で思っているのを見ていると、なぜだか胸が締め付けられた。

 谷崎潤一郎の『鍵』では、夫婦の狂った情欲は驚愕のラストへと繋がっていく。『しおりの日記』も、伏線かと疑われる怪しいシーンが何箇所か描かれている。予想外に始まった不倫は、一体どんなラストを迎えるのだろうか。

 一時の悦びと背徳感が癖になる成熟した大人の物語。ぜひこっそりと読んでみてほしい。

文=さゆ