作家・法月綸太郎が、偏愛する東西の名作9篇に捧ぐ、オマージュ連作短編集『赤い部屋異聞』

文芸・カルチャー

公開日:2019/12/23

『赤い部屋異聞』(法月綸太郎/KADOKAWA)

 心がザワついて眠れない夜は、身の毛のよだつようなミステリーを読みたい。恐ろしさに眠れなくなってしまうのは百も承知。だが、深まっていく夜の中で、物語のおどろおどろしさを味わい尽くしたいのだ。

 特に、この真っ赤な書影の本は、夜に読むのにふさわしい一冊だったように思う。本の世界にはあっと言う間に飲み込まれ、気づいたら、外が明るくなるまで呆然としてしまった。この本とは、法月綸太郎氏の『赤い部屋異聞』(KADOKAWA)。江戸川乱歩や都筑道夫、コーネル・ウールリッチなど古今東西の名作9編をオマージュして描いた連作短編集だ。この本の中には、クラシックな怪談めいた作品もあれば、SFっぽい作品もあり、一口にミステリーと言っても、一冊で様々な味わいが感じられる。短編だから途中で読む手を止めても良いのだが、どんどん次の作品が読みたくなる。ミステリーやホラー小説が好きな人は必読の本と言って過言ではないだろう。

 表題作「赤い部屋異聞」は、その名の通り、江戸川乱歩の『赤い部屋』をモチーフにした作品だ。舞台は、日常に退屈した者が集い、世に秘められた珍奇な話や猟奇譚を披露する「赤い部屋」。新会員のT氏は、新入会とは思えないほど挑戦的。世の中に退屈しきっていた彼は、昨今、世にもすばらしい遊戯を発見し、その楽しみに夢中になっていたという。

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遊戯というのは人殺し、正真正銘の殺人だ。九十九人の命を、退屈しのぎのためだけに奪ってきた

 そう豪語するT氏は〈殺人遊戯〉について語り始める。彼が見つけた、少しも法律に触れない、安全至極な殺人法とは何なのか。そして、恐るべき身の上話ののち、仰天の結末がT氏を待ち受けていた。

 このあらすじだけを読むと、原典を知っている人は、「原典とどこが違うのか」と疑問に思うかもしれない。私自身、原典を読んだことがあるため、こんなにも「赤い部屋異聞」にゾクゾクさせられるとは思いもよらなかった。クライマックスにかけたどんでん返しに驚愕。予想とは違うところへと向かう物語に圧倒されてしまう。そして、元の江戸川乱歩の作品をまた読み返したくなってしまった。この短編集に掲載された作品は、原典の物語を知れば、一度で何度も楽しめてしまう。

 その他、書き下ろしである“決して最後まで読めない本”の怪異譚「だまし舟」など、この本に収められた作品は、背筋が凍る怪異譚ばかり。各短編の末尾には、「細断されたあとがき」が添えられ、何をオマージュした作品なのか、どんな思いで描いたのかを垣間見ることができる。そこから感じられるのは、法月氏の原典へのリスペクト。元となる作品にいかに敬意を寄せているかが感じられる。

 変幻自在な文体、研ぎ澄まされたロジック、予想を超える結末……。法月氏のミステリー愛に溢れたこの短編集をぜひとも読んでみてほしい。読めばあなたも法月氏が描く世界に引きずり込まれること間違いなし。このゾクゾクする感覚を味わってみてほしい。

文=アサトーミナミ