スヌーピーやチャーリー・ブラウンが大活躍! あの「ピーナッツ」の世界を完全網羅する全集が刊行

文芸・カルチャー

公開日:2019/12/26

(c)2019 Peanuts Worldwide LLC

 世代を超えて世界中で愛されるスヌーピーとその仲間たち。もちろん日本にもファンは多く、2019年12月に南町田グランベリーパークにスヌーピーミュージアムが規模を2倍にして再オープンするなど、うれしいニュースに喜んでいる方も多いことだろう。

 実は本の世界でも見逃せない大きな動きがあるのをご存じだろうか。「スヌーピー生誕70周年」を記念して、2019年10月から全25巻の『完全版 ピーナッツ全集 スヌーピー1950〜2000』(チャールズ・M・シュルツ:著、谷川俊太郎:訳/河出書房新社)の刊行が始まったのだ。

(c)2019 Peanuts Worldwide LLC

 キャラクターだけ知っているという方もいるので念のため。スヌーピーたちが生まれたのはチャールズ・M・シュルツ氏が1950年10月から半世紀、日々描き続けた連載コミック「ピーナッツ」からだ(月〜土は4コマ【1988年3月より、3コマ標準のスタイルに変更】、日曜版には若干長いバージョンが掲載された)。この全集はその「ピーナッツ」連載の最初から最後まで全1万7897作品を「ヴィンテージ編」「黄金時代編」「完結編」に分けて初出順に収録したという画期的なものだ。

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(c)2019 Peanuts Worldwide LLC

 深いファンの方ならご存じかもしれないが、ピーナッツシリーズは時代と共に作品自体が成長しており、おなじみのスヌーピーやチャーリー・ブラウンの絵柄になるのは1970年代のことで、連載当初から約20年間は少々テイストの違うものだった。

 とはいえ、その頃から二足歩行する変わり者の犬・スヌーピーは大人気。アポロ10号の司令船が「チャーリー・ブラウン」、月面着陸船が「スヌーピー」と名付けられるほどアメリカ文化の象徴的存在になった。今回、こうした初期20 年間のヴィンテージ期が本にまとめられるのは史上初のことであり、アメリカ本国でも初出以来なかったというのだから、この全集がいかに貴重かわかるだろう。もちろん日本語訳はおなじみ谷川俊太郎さんだ。

読んでも読んでも終わらないピーナッツワールド!

 全集は毎月2巻ずつ、まずは人気が世界的になる「黄金時代編」の全10巻(1971〜90年)から刊行される。スタートにあたる10月に登場したのは、15巻『スヌーピー 1979〜1980』と19巻『スヌーピー 1987〜1988』だ。

(c)2019 Peanuts Worldwide LLC

 表紙は各巻キャラクターのアップというのもツボだが(ちなみに15巻のニンマリ笑うチャーリー・ブラウン、19巻の頭を抱えて大騒ぎするルーシーに、思わずこちらもニンマリ)、ちょっと大判でずっしりした300ページ超えの本はとにかく手応えがすごい。

 これまで選集でピーナッツの世界に触れてきた方も多いかもしれないが、読んでも読んでも終わらないようなボリューム感でその世界に触れると、不思議とキャラクターと一緒に日常を過ごしているような親密な感覚になってくる。と同時に、シュルツ氏の膨大な仕事量にあらためて驚嘆するのだ(これが25冊なのだから!)。

(c)2019 Peanuts Worldwide LLC

 ちなみに各巻共、現代アメリカで活躍中のジャーナリストや漫画家がピーナッツ評を巻頭に寄稿し、巻末には掲載データ他の資料も万全。資料価値も十分にピーナッツの全貌を知ることができる、まさに「完全版」と言えるだろう。

 ドジは多いが聡明なチャーリー・ブラウン、姉御肌の皮肉屋ルーシー、いたずら好きでどこかシニカルなスヌーピーなど、ピーナッツのキャラクターたちは単なるかわいさだけではない豊かな個性を持つ。そんな彼らが活躍する「ピーナッツ」がこれほど世界で愛されるのは、単純におもしろいだけでなく、ある種の普遍的な人間への気づきを与えてくれるからだろう。

 読むたびに発見があり、読めば読むほどその深さに気づかされる。それはまさに、作者のシュルツ氏が「人間観察の巨人」であった証。この全集でその全貌を知ることができるのは楽しみでならない。

文=荒井理恵