「今月のプラチナ本」は、山口つばさ『ブルーピリオド』

今月のプラチナ本

更新日:2020/1/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『ブルーピリオド』(1~6巻)

●あらすじ●

成績優秀、世渡り上手、飲酒喫煙夜遊び好きで人望も厚い、スクールカースト上位の高校生・矢口八虎。充実した毎日を過ごしながらも、どこか空虚な焦燥感を感じていたある日、一枚の絵に心を奪われる。その衝撃は美しくも厳しい美術の世界へと八虎を駆り立て―!? 絵を描く悦びに目覚めた八虎と美大を目指す仲間たちの、青春を燃やすアート系スポ根受験物語。

やまぐち・つばさ●東京都出身。アフタヌーン四季賞2014年夏のコンテスト佳作受賞。16年、新海誠のデビュー作『彼女と彼女の猫』のコミカライズを担当。その他の作品には、「告白の時間+」がある。17年より講談社『月刊アフタヌーン』にて、『ブルーピリオド』を連載中。

『ブルーピリオド』(1~6巻)書影

山口つばさ
講談社アフタヌーンKC 各630円(税別)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

技術があればもっと自由に飛べる

勉強も夜遊びも人間関係もソツなくこなせる八虎が、〝好きなこと〟を見つけて驀進していく物語。ソツなくこなせることだけやって45歳まで来てしまった私には、あまりに熱く、あまりに苦しい作品だ。自分の空虚さを突きつけられながらも、読むのをやめられないのは、本作が若者の情熱だけでなく、手段をも冷徹に描いているからだろう。「絵って思ってたよりずっと自由だ けど技術があればもっと自由に飛べそうだな 俺もぶっ飛ぼう」技術だけはある中年の私も、これからぶっ飛びたい。

関口靖彦 本誌編集長。好きなことを自由にやるには、技術と習練が必要。この簡明にして困難な摂理を教えてくれる本作、ぜひ若いかたに読んでほしいです。

 

夢中になれるものに出合えた幸せ

のめりこむことへの快感と目が回りそうな緊張感。自分の中にあるそんな記憶を引っ張り出してくれる作品だ。主人公・矢口八虎が、空虚を持て余している日常から、本気になれるものを見つけたかもしれない、いや趣味でよくない? でもやっぱり……やってみたい!と方向を見定め猛ダッシュしていく様が気持ちいい。夢中になれるものって、苦労なんて思わないで、とんでもない努力をしていることがありますよね。ただその夢中になれるものに出合うことは一生で何度もないんだろうなぁ。

鎌野静華 弊誌1月号掲載の武田真治さんインタビューに触発されてライターさんが走り始めたらしい。私も体力作りをしなければと思ってはいる……(焦)。

 

なぜ彼はレールを外れることができたのか?

インテリイケメンの矢口八虎は、美術室で出会った一枚の絵によって世界の見方を根底から変えられてしまう。娯楽、受験、対人関係。高校生もまた、多くの情報に取り囲まれて生きている。その波を無難に乗りこなせる矢口だからこそ、変化の代償は大きかったはず。絵画も一つの情報であり、それによって行動の指針が丸々変わってしまうこと、そんな自分を受け入れた矢口を待ち受ける運命は他人事ではない。そうした瞬間は、いくつになっても、誰にとってもありえることだと思うから。

川戸崇央 本誌にてノベライズ版が連載された『空挺ドラゴンズ』。いよいよ1月8日よりアニメ放送開始! 本誌172Pからの特集記事も是非ご一読ください!

 

クリエイティブは孤独だからこそ

藝大受験を目指す登場人物たちが、他者と比較し、自分と向き合い、血を吐きそうなほどにあがきながら振り絞り、発せられる「言葉」の数々は金言だらけだ。〈楽しんで作って それ否定されたら 立てなくなりそうで怖いんだよ…!〉。クリエイティブは青天井で、孤独で、しんどい。だから作中彼らを応援する大人たちの言葉がまた力強い。〈矢口に足りてないのは 「自分勝手力」よ〉〈楽しんじゃう力〉。私もせめて周囲にいてくれるクリエイターを応援できるような、言葉を多く持ちたい。

村井有紀子 『騙し絵の牙』映画撮影現場に度々お邪魔していたのですが、大泉洋さんからもらったメールに泣きそうになった年末。2020年良い年になりそう。

 

人生という土俵に引きずり上げられる!

まぶしさで目がくらむこと数十回。これをやらずにはおれないのだという衝動。これこそが自分の〈仕事〉なのだという不思議な確信。あぁ、切実で傲慢で美しい「夢中になること」の全部がここにある。いやはや若いっていいですなぁ、と目を逸らそうものなら「頑張れない子は 好きなことがない子でしたよ」とグサリ。はい。〈本気で生きる〉ことに年齢なんて関係ないですね。老いも若きも逃げ場なし。全人類を人生という土俵に引きずり上げる容赦なき輝きに、淀んだ眼を焼かれるべし!

西條弓子 ここ数年にわたり、私を悩ましているのが「推し」の不在。推しさえいれば、もうちょっと頑張れるはずなんだ。たぶん。2020年こそ出会いたい。

 

才能って簡単に言わないで

自分の感性を表現するのは怖い。でも認められればこんなにも嬉しい。美術の魔力に出合ってしまった八虎が、なぜ絵を描くのか問いながら努力を重ねていく姿に、本当に胸が熱くなる。美術部や予備校の仲間たちの創作物として実際の作品が登場するから、リアリティも格別。美大を目指すのは選ばれた人、というイメージがあったけれど、彼らは普通の高校生だ。ただ、自分の限界に挑みつづける本気度はちょっと普通じゃない。この先、彼らがどんな道を進んでいくのか、見届けたい。

三村遼子 これを読んで美術に触れたくなったら、特集「原田マハと覗く美術館の舞台裏」をどうぞ! アートへの熱い想いや注目企画展情報など満載です。

 

自分の絵(せかい)を探し続ける強さ

好きなことを通して自分自身と向き合うことの苦しさ、そして尊さが熱量高く伝わる傑作。主人公・八虎が両手の親指と人差し指でファインダーを作り、そこを覗き込む彼の視点で描かれたコマに象徴されるように、このマンガそのものが彼自身の絵。美術が主題だが、自分をうまく表現できなかった経験のあるすべての人に突き刺さるストーリーは、この時代にこそ必要だ。現状に満足している人も、していない人も、第一部完のいま、一気に読んでほしい。この熱を知らないのはもったいない。

有田奈央 推し続けた『ブルーピリオド』がついにプラチナ本に! さらに大好きなハロプロ特集も担当できて本当に幸せです。2020年、最高の始まり。

 

好きだからこそ、苦しい

好きなことを続けることほど、苦しいものはない。本気になれるものだからこそ、理想と現実の乖離に苛立ち、焦り、楽しさはいつの間にか薄れ、何度も立ち止まってしまいそうになる。それでも八虎は、前へと進むことを諦めない。ただ〝好き〟だから。もっと上手くなりたいから。その真っ直ぐさが、熱意が、夢中になれるものに対して純粋に突き進む彼の姿が、心を揺さぶってくる。「好きなことをやるって いつでも楽しいって意味じゃないよ」。でも、好きだからこそ諦めずにいられるのだ。

前田 萌 京都旅行へ行ってきました。なぜか基本、徒歩移動……。金閣寺から仁和寺へ、清水寺から京都駅へ……。意外と歩けるものですね。健康的な旅でした。

 

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