単行本を買わずにはいられない! 漫画『かくしごと』のおまけページがおもしろい

マンガ

公開日:2019/12/31

『かくしごと』(久米田康治/講談社)

 漫画の単行本には、掲載雑誌では拝めない“おまけページ”がたくさんあります。たとえば、カバー裏にある描き下ろしのイラストや巻末あとがき、読者投稿コーナーなど、単行本を買った人だけが楽しめる仕掛けがあるのも、単行本を手に入れる醍醐味ですよね。

 なかでも私が楽しみにしているのは、久米田康治先生が手がけている漫画『かくしごと』(講談社)のおまけページです。

『かくしごと』は、主人公の中堅漫画家・後藤可久士が自分の職業を娘に秘密にしたまま、日常生活を送るギャグ漫画。作中には、さまざまな“漫画家あるある”が登場し、読者が知らない漫画家の苦悩が描かれています。

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 そんな同作の単行本には「描く仕事の本当のところを書く仕事」というおまけページがあり、業界の裏話や作者本人の複雑な胸の内が綴られているのです。

 久米田作品といえば『さよなら絶望先生』をはじめ、現代社会への風刺を織りまぜた、ブラックユーモアあふれる作風が魅力のひとつ。彼の作風同様、おまけページでもブラックなユーモア満載の久米田節が炸裂しています。

 たとえば、東京を離れる漫画家について語ったコラムでは、現在住んでいる土地の空気が作品にも影響するのでは、と独自の見解を述べます。

「東京の話は東京で描いた方が精度はあるとおもいます。
かといって異世界転生ものを異世界で描く必要はありません。どこでも描けます。

ここは僕の短くない漫画家業の経験から独断と偏見で
ジャンル別『これを描くならこの場所で!』を決めてみたいと思います。

異世界転生ものを描くなら群馬などの北関東がベスト。
ラブコメは人口30万以下の地方都市。
ホラーものは四国各県。
スポーツものは神奈川県。
ヤンキーものは千葉県西部(内房)。
ゾンビものは佐渡島。
SFは長野県佐久市。
バトルものは広島県江田島市。
医療ものは沖縄県与那国町。
ギャグは埼玉県久喜市。

理由はなんとなくです。謝らないよ。」

 妙に説得力がありますよね。そして、本編の内容とコラムの内容がリンクしているのも同作のおもしろさ。おまけページでありながら、本編の一部でもあるのです。

 じつは、『かくしごと』にはコラムのほかにも、おまけページがいっぱい。描き下ろしのフルカラーページや久米田先生が辿った仕事場の歴史を描く「うろ覚え 漫画家仕事場遍歴」なるエッセイ漫画も掲載されています。単行本サービスが止まりません。

 久米田先生のコラムは、『さよなら絶望先生』の「紙ブログ」、『せっかち伯爵と時間どろぼう』の「エセエヌエス(仮)そーおっしゃるねっと枠」、『かくしごと』の「描く仕事の本当のところを書く仕事」と脈々と受け継がれてきた伝統(?)のおまけページでもあります。そのため、久米田ファンにとってはなくてはならない存在になっているのです。

 しかし『スタジオパルプ』のコラム「久米田康治の取説」では、先生のホンネがちらり。

「一応これでも『漫画家』ですので、面白い文章を期待しないで下さい。編集さんも単行本出る度に文章モノを要求しないで下さい。
いつも言ってますが
文章だけで面白いものが書ければ小説家になってます。絵だけで素晴らしいものが表現出来たらイラストレーターになってます。どっちも中途半端だから漫画家なのです。」

 そんな久米田先生のお気持ちを知りながら、作品の本編と同じくらいおまけページを待ち望んでいるファンがいます。そう、私です。作者とファンの思いは、いつだって平行線なのかもしれません。

 ちなみに、2020年4月からアニメ『かくしごと』の放送がスタートします。同作のアニメ化を機に、おまけページの「描く仕事の本当のところを書く仕事」にも注目が集まってほしいな、と密かに祈っております。

文=とみたまゆり