芸能人だけじゃない! 一般人にも忍び寄る薬物の恐怖。覚醒剤、大麻、コカイン…軽い気持ちで手を出せる恐ろしい現実とは

マンガ

公開日:2019/12/29

『マトリズム』(鈴木マサカズ/日本文芸社)

 覚醒剤、大麻、コカイン…あらゆる薬物犯罪を追う麻薬取締官の物語が『マトリズム』(鈴木マサカズ/日本文芸社)である。

 2019年は芸能人が複数人、薬物で検挙されて大きなニュースになった。その記憶も新しい今ぜひレビューしておきたい、そう思った作品だ。

 本作が教えてくれるのは、薬物は金持ちや、闇社会と深く繋がる人間だけのものではないいうことだ。残念ながら薬物への甘い誘いは、もうあなたのすぐそばにあるかもしれないのだ。

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“善良だった”一般市民を捕まえるマトリの物語

 あらゆる薬物犯罪を、追って暴いて捕まえる2匹の猟犬がいた。草壁圭五郎(くさかべ けいごろう)と冴貴健一(さえき けんいち)。彼らの職業は麻薬取締官、通称「マトリ」だ。

 麻薬取締官は略してマトリ、そして麻薬Gメンとも呼ばれる、厚生労働省の職員だ。彼らは特別司法警察職員としての権限を持ち、警察官と同様の逮捕術の訓練を受け、拳銃・特殊警棒等の携帯も認められている。ちなみに警視庁にも、組織犯罪対策第5課という薬物や銃器などの捜査を担当する部署が存在している。

 毎日がつまらないと嘆く大学生がインターネットで麻薬を仕入れて学校で売っている。余裕のある主婦が、いっぱいいっぱいの生活を送る主婦に、栄養剤と称してMDMAを低額で試させる。人生をあきらめかけたフリーターが手軽に取引をして覚醒剤を手に入れる…。彼らがエピソードごとに異なる本作の主人公だ。

 薬物犯罪へ気軽に手を染める一般市民たち。草壁は彼らに容赦をしない。時にはギリギリアウトな行動に出て、始末書を書くことになる。ただ家族が薬物に手を出したことで悲劇に見舞われた人間の、アフターフォローも行うなど情に厚い一面もある。草壁が薬物に対して過剰にアツくなる理由は、物語の中で明かされる。

 ワイルドな風貌でアツい草壁と、小ぎれいでクールな冴貴の好対照なコンビが社会の闇に挑んでいく。

最新巻で描かれる“薬物とかかわった2組の夫婦”の行く末とは

 最新の8巻では、2組の夫婦を描いたエピソード「マンション編」が完結する。子どもができない悩みから、徐々に夫婦の距離が広がりつつある亀池夫婦。薬物を売買し、乱用する日向夫婦。彼らの生活が交差したとき、取り返しのつかない展開が…。

 薬物――コカインを使用した人間が壊れていく様子は、読んでいて背筋が寒くなった。薬物に手を出した人間の行き着く先が淡々と描かれ、シンプルな絵柄も逆に恐怖心を煽ってくる。この最新巻は、マンガとしても警告書としても一読の価値がある。

「芸能人でもないし、お金もないし、危ないところには行かないからリアリティがない」そんな風に思うあなたは危険である。登場人物たちも最初はただの興味本位だった。そして彼らは大学生や主婦など、善良な普通の人たちだったのだ。

 お金もそれほど持っていない。反社会勢力と直接つきあっているわけでもない。にもかかわらず彼らがどうして引き返せない道を歩き出してしまうのか。本作はそれをリアルに描いている。

「誰もがみんな、“あちら側”に墜ちる可能性がある」のだ。しかも今はそのハードルが、決して高くないのである。この恐ろしさを、本作を読んで体感してみてもらいたい。

文=古林恭