犬や馬をパートナーとする動物性愛者「ズー」の性生活。ダイバーシティの先には何がある?

文芸・カルチャー

更新日:2020/5/11

『聖なるズー』(濱野ちひろ/集英社)

 AVの中には「これは残酷過ぎる」と、抗議の声が寄せられるジャンルがある。そのひとつが、性行為のために動物が登場するものだ。「動物を人と絡ませるのは性行為ではない。動物虐待であり重大な人権侵害である」――その意見に私も同意する。しかし、『聖なるズー』(濱野ちひろ/集英社)に登場するのは「ズー」と呼ばれる、動物をパートナーとする動物性愛者たちだ。
 
 著者の濱野ちひろさんは京都大学の大学院博士課程に在籍し、文化人類学におけるセクシュアリティを研究している。そんな彼女はプロローグで、「私には愛がわからない」と告白する。

“私がわからないのは、恋人への愛と、それに往々にして絡みついて現れる性愛だ。
私にはセックスがわからない。”

 東京の大学に通っていた19歳から22歳にかけて、濱野さんはパートナーから性暴力を含む、身体的・精神的暴力を振るわれていたという。シャッターを降ろす棒で延々と打たれたり、機嫌が悪くなると5時間も6時間も詰問されたりしていたそうだ。しかし28歳の時にその男性と結婚する。それは、結婚となれば両家の親族が関わってくるし、法律も関与してくることが理由だった。

 9カ月後、予想した通り夫の暴力によって結婚生活は終焉を迎えた。彼女は解放されたかのように思えたが、10年間逃げられなかった自分のことを責め怒りを抱き続けたという。そしてセックスや愛そのものを軽蔑するようになっていた。

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 しかし一方では、それらを理解したいという強い欲求を持ち続けていた。そこでセクシュアリティについて学ぼうと向かった京都大学大学院で、彼女は「動物性愛」というテーマがあることを知る。

 今まで考えたこともなかったのに妙にひっかかった「人間と動物のセックス」について知るため、動物性愛の当事者団体があるドイツに2016年からおよそ4カ月にわたり滞在し、その団体のメンバーたちと出会っていく。